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4-72.最後の接吻
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-72


翌日、彼女は学校の試験だ。

これに合格すれば次のレベルに上がれる、それが終れば晴れて通訳の資格獲得ということらしい。あまり邪魔はできないし、俺も年末で忙しいので朝一番の便で帰ることにしていた。

早朝、目覚ましで起きた俺は布団を抜け出して一人、支度を始める。電気ストーブをつけたが部屋は簡単には暖まらない。寒さに震えながらとりあえず服を着込んでから歯を磨く。昨晩は何だかんだで遅かったので、彼女はまだ布団で爆睡中だ。起そうかと思ったが思いとどまった。今日の試験を前に少しでも眠っておいた方が良い。

理由はそれだけではなかった。今月が生活費をあげる最後になるという話を結局、せずじまいだった。どこかでこの話はしなければならない。でも、朝の慌しい中にちょっと話をしたくらいで彼女が納得するとは思えなかった。でも、金を渡して何も言わずに去るのもまた何か違う気がする。

昔彼女が援助を欲しがったときに、ちゃんと会って話をしない態度をなじったが、何のことはない、言いにくい話が俺の方にある時には、俺だって直接顔を合わせて話したくないと思っているのだった。

大きな音を立てないように荷造りをし、洗面台に向かって身なりを整える。雪肌精の青い容器を倒さないように自分のムースの缶をとって髪をいじる。この青は俺の好きな青だ。雪肌精って中国っぽい名前だけど日本の製品なんだよな。でも何て読むのか未だによくわからない。わからないと言えば、その下にあるキティの入れ物の中には何が入っているんだろう。手を洗って洗面台脇の湿ったタオルで手を拭き、机に座って置手紙を書き始めた。

ちゃんと説明しようとして長々と書いたが、何だか仰々しい。書いた紙を破って捨て、頭を切り替えて、新しい一枚に短く用件だけをしたためた。

“よく寝てるので起こさずに帰るよ。これは今月の分。約束したとおり、これが最後のお金だ。試験頑張ってね”

書き終えた手紙を生活費の入った封筒とともに机の上に置き、重石代わりに右上の角をプーさんのマグカップで押さえる。ベッドに近づくと彼女はまだ眠っている。布団から覗いた裸の白い肩が朝日に照らされて輝いている。頭を撫でると彼女が寝返りを打ち、目をとじたまま聞く。

「Are you going now?」
「Yes, I have to go now. See you」

と俺が言うと、目を閉じたまま首に手を回してキスしてきた。

彼女にとっては普通の挨拶だろうが、実際にはたぶん最後のキスになるかもしれない。そう思うと心がチクリと痛んだ。

思わず、一回のキスで離れる彼女を再び抱き戻して、もう一度唇を重ねた俺だった。


4-72b



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