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3-76.劇的口論
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-76

タクシーは人民広場の方に向かっている。ここに彼女が行きたいバーがあるらしい。タクシーの運転手が黙って車を走らせるその後ろで、俺たちは大声で口げんかをしていた。

「だいたい、生活費の明細がおかしいって何よ。あたしは何度も説明してるでしょ」
「あの説明で納得できるわけないだろ。そもそも金額が平均とかけ離れてるんだから」
「じゃぁ、レシートを全て提出しろっていうの? 税務署にでもなったつもり?」

もう相当混乱してきた。問題はそういう話なんかでは全然ない。

最初この話をしはじめた時は、感情的にならないように慎重に言葉を選んで話をしていた。俺もそうだし、彼女もそうだった。でも今回はそれとは全く逆のやり方で喧嘩している。

わかっていた筈の袋小路に入り、立ち入ってはいけない地雷原に走り込む。堤防が決壊したかの様に、今まで押さえていた感情がほとばしり、辺り一面を埋めてゆく。そんな不毛な言い争いを大声で続けていた。

一方、タクシーは比較的順調に道を走り、人民広場に近づきつつあった。そろそろ目的地なので運転手は客に正確な場所を聞きたいところだ。しかし、背後で大声で口げんかしている俺たちに気圧されていたらしい。

それもそのはず、俺たちは英語で怒鳴りあっているのだ。英語のわからない運転手にしてみればさっぱり状況がわからない。俺たちが何で怒っているかも、会話の内容がわからないので見当もつかないんだろう。

互いに感情をぶつけ合い、言いたいことを全部はき出して俺たちのアタマがちょっと空白になる。矢の様に飛び交っていた英語が鳴りやみ、一瞬車内に静寂が流れる。その瞬間、運転手の弱弱しい声が響いた。

「しゃ、小姐・・」

卑屈な、ご機嫌を伺うようなトーンの声だ。運転手なりにタイミングを計っていたんだろう、しかも、俺たちに気圧されて割って入ることに極度に緊張していたかもしれない。少し裏返ったその声はどうしようもなく間抜けで、しかも俺たちが疲れて一瞬気をぬいたその瞬間に静寂の車内に響いたのだった。

必死に怖い顔を作っていたが、腹の底では大笑いの俺。彼女の方も同じ気持ちだったみたいだ。さすがに笑い声は出なかったが、何とも複雑な表情をしたまま運転手に場所の指示をする。完全に気勢がそがれてしまった俺たちは口げんかを再開することはなかった。

運転手。
君は今日いい仕事をした。



3-76b


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