FC2ブログ
スポンサーサイト
-- / -- / -- ( -- )
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-- : -- : -- | スポンサー広告 | page top↑
4-41.ピアノ
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-41

かなり一杯になった腹が一段落するまでぐだぐだしてから勘定を済ませて店を出る。

時刻は12時を回ったところだが、彼女はまだ部屋に戻りたくないと言う。身体は疲れているはずだが、明日はもうお別れの日なので少しでも長く起きていたいんだそうだ。それは嬉しいけど、さて、何をしますかねぇ。娯楽なんか全然なさそうだよここは。

1階からホテルに入り、レストランの脇の階段を上がってゆくる。レストランはバーとしての営業を終えたばかりのようで、店員が清掃を始めている。それを見下ろしながら2階に上がるとそこにピアノがあった。そういえば、昼間生ピアノの演奏をしてたっけ。

「ピアノを弾こう!」

彼女が唐突に言い始める。でもこれって触っちゃ駄目だろ。

「大丈夫よ、ちょっとだったら平気だから」

何を根拠に言っているのか全然わからないけど自信たっぷりだ。
で、誰が弾くのさ。

「あなた弾けるって言ったじゃないの」
「君も習ってたんでしょ、まず最初に弾いてみてよ」

譲り合いながらもピアノに近づき、ふたを開ける。恐る恐る鍵盤を押すと、大きな音がホールに響いた。うわぁ、大丈夫かなぁ。

「じゃ、まず私からね」

と、彼女が弾き出す。あーもう手加減なしだよ。普通のタッチで弾いている。大きな音がホールに響く。しかも弾いてる曲はモロ練習曲だ。聞いてるほうが恥ずかしい。でも、彼女はそんなこと全然気にしちゃいない。フルで一曲弾ききると、自慢げにこっちを振り返る。

「ほら、弾いたわよ。今度はあなたの番」

何だか肝試しみたいな雰囲気になってきた。交互に弾いていったら、怒られるときにはどっちが弾いていることになるんだろう?

俺も腹をくくって弾き始める。練習曲は嫌なので、それっぽい曲で、かつ、ちゃんと弾けるやつ。こういうことを一生懸命考えるところが、俺も人間が小さいよな。

「凄い、上手いじゃない」

彼女が歓声を上げる

「じゃぁ私の番ね」

で、また練習曲。しかも今度は長い。時間が経つほど通報されて誰かが止めに来る可能性が高くなる。こんなに長く弾いたら俺がヤバイじゃないか。

そして、次に俺の番。姑息にも凄く短い曲を選んだんだけど、30秒も弾かないうちに廊下の向こうから黒いスーツを来た男が手を振りながら歩いてくるのが見えた。

うわぁ、やっぱり来たぁ。

二人で慌ててピアノを片付けると、駆け足で反対方向に逃げ出した。



4-41b



04 : 15 : 50 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-42.人事不省
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-42

そんなに時間は経ってはいないが、ピアノをいたずらしたことで大分気が済んだみたいだ。

彼女も部屋に戻ることに異存はない。部屋と反対方向に逃げてしまったので1階を通って別の階段を使って再び2階に戻る。そして宿泊棟の俺たちの部屋まで逃げ帰った。

彼女はベッドに座ってテレビを見始めた。それを尻目に俺はさっさと支度をしてシャワーを浴びにいく。今日は暑くて汗をかきまくったので本日三度目のシャワーだ。さっぱりしてシャワーブースを出て部屋に戻る。ベッドボードにもたれたまま、彼女はまだテレビを見ているようだ。頭をタオルで拭きながら近づき、話しかけようと彼女の顔を見た瞬間、俺は凍りついた。

うわっ!

明らかに彼女を異変が襲っていた。ベッドボードにもたれてはいるものの、身体からは力が抜けている。手にも足にも生気がない。首は少し右側に傾き、口は半開きに開いている。そして目は半開きのままでぴくりとも動かない。

死んでる?

前を隠すのも忘れて彼女に近づき、肩に手をかけてゆする。首ががくがく揺れるが何の反応もない。身体はまだ温かいが、死んでいたとしても時間がまだ経っていないから体温じゃ判断はつかないだろう。

そっと鼻のところに耳を当てると、かすかに息をする音が聞こえた。

寝てる、のか??

目の大きい人は眠るときに薄目になってしまう人がいる。それに、彼女は一旦眠ってしまうとなかなか起きない質であることも事実だ。そういうことなのかなぁ?

大きな鼾をかいていたら脳血管障害を疑うところだけれども、そういう意味では凄く静かだ。何か別の病気か何かで意識を失うってことあるだろうか?熱射病がいまさら来るということもないだろうし。

医者や救急車を呼ぼうにもここは中国。言葉のわからない俺にとっては負担が重い。大騒ぎして何でもなかったらあとのフォローが大変だ。逆に、このままいずれ死んでしまうような病気なんだったら、今動いても明日朝動いても騒ぎになるという点では一緒だという気もする。問題ないんだったら明日朝には目覚めるだろうし、少なくとも明日朝の段階では行動を選ぶのに悩むことはないだろう。

決めた。寝る。

何となくどこかで理屈がおかしい気もしたが、疲れていた俺はこれ以上いろいろ考えるよりも肚をくくって寝ることを選択した。



4-42b



04 : 19 : 16 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-43.遅れ挽回
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-43

翌日の早朝、部屋の中を誰かが動く気配で目を覚ました。

まどろみながら昨晩のことを思い出し、「あぁ、生きてたんだ」と安堵するとまた眠りに落ちていった。

次に目を覚ましたのは布団に人が入ってくる気配を感じた時だ。気配っていうか、冷たい。だからシャワーを浴びた後はちゃんと身体拭けよ。と思いながらも口には出さずに、目だけ開けた。彼女の顔が目の前に見える。

「昨日、テレビ見ながら寝ちゃったみたい」
「いやもう、びっくりしたよ」
「何が?」
「口と目を開けたまんま寝てるんだもの」
「ほんと?」
「ほんとだよ、もう。死んでるかと思った」

腹を抱えて笑い出す。

まぁ何はともあれ何事もなくて良かった。後は帰るだけだ。今日は午後便での帰国だ。上海にいるんだったら朝はゆっくりできるけれども、ここは蘇州だからまず上海まで戻らなきゃならない。そんなにゆっくりはできないはずだ。

何時かと聞いても、彼女は答えをはぐらかして絡み付いてくる。首を回してベッドサイドの時計を見と、明け方などではなくもう結構な時間だ。

「ヤバいよ、そろそろ支度しないと」
「大丈夫よ、何とかなるわよ」

またもや根拠なく言い切って、彼女は止まらない。あぁ、こりゃ駄目だ。



改めて時間を見ると、9時を回っている。
こりゃ結構ヤバいんじゃないですか?

慌てて彼女を急かして支度をする。何が心配って、電車も何も一切予約していないのである。時刻表すら持っていない。電車が意外に本数少なかったりしたらどうしよう。

駅に着いて切符売り場に向かう。そこは長蛇の列だった。二人で別の列に並び、ようやく順番が来て確認するが、次の電車の切符は売り切れだという。

ひー、心配してたことが起こったぞ。どうしよう。

彼女がすぐに代案を出す。中国人はここからが強いのだ。今の彼女はまさにスーパーサイヤ人状態だ。別人の様にてきぱきと動き始める。バスを使おうという話になって切符売り場を探す。と、その時、彼女が男に声をかけられて売店の奥に入っていった。そこで話し込んでいる。と、俺の方を振り返って一言。

「二人で80RMB出せば次の電車に乗れるって」

そこはダフ屋だったらしい。しかし今回は正しくぼったくりだ。来るときは二人で30RMBだったのだ。でも背に腹は変えられない。すぐに金を出して切符を貰うと、全速力で走ってホームに向かった。



4-43b


04 : 21 : 53 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-44.時間切迫
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-44

駅の待合室まで行くと、まだ案内は始まっていなかった。ほっとため息をついて腰を下ろす。周囲はそこそこ人はいるが、上海の混雑に比べたら大分人は少ない。落ち着いたところで時間を計算する。この時間の電車に乗れるんだったら、何とか間に合うことはできそうだ。

しかし。そこでまた問題発生。電車が遅れていて全然来ない。

5分待っても10分待っても来ず、結局20分遅れで到着した。そうだった。電車が時間通りに走るなんてのは日本だけの話なんだった。安堵していた気持ちが一気にまた緊張状態になる。電車が駅についてからがまた勝負だ。
走り出した電車の中で、スーパーサイヤ人的彼女との作戦会議が始まる。

「リニアモーターカーを使った方がいいわ。全然早いでしょ」
「いや、あれは速いんだけど早くないんだ。乗るまでに時間かかるから」

結局、駅でタクシーを拾ってすぐに高速に乗って飛ばすのが一番速そうだ。
そんなこんなで作戦会議は終了。あとはとりあえず列車が着くのを待つしかない。

電車は滑るように走ってゆく。相変わらず騒音も揺れも少ない。結構快適だ。列車ままたもや満席に近いが、来るときよりもグレードの上の席なんだろうか、全体的に少し余裕がある気がした。

彼女が俺の肩に頭をもたせかけて眠りはじめた。向かいの子供がぼんやりと俺たち二人を見ている。うらやましいのかな。仲良さそうに見えるのかな。少なくともKTV小姐と客だった二人には見えないだろうな。

***

列車は結局30分遅れで上海駅についた。道中で遅れを取り戻すどころかさらに遅れやがった。かなりヤバイんじゃないのこの時間は。二人で通路を走ってタクシー乗り場に向かう。彼女が走りながら提案する。

「あたしも一緒に乗るわ。運転手に言って急がせるから」

をぉ、御大自ら指揮をお執りあそばされますか。そいつは心強い限り。

駅の出口を出てタクシーを拾う。いつものように助手席に荷物を置き、後部座席に座る。彼女が俺のあとから乗り込んできて運転手に事情を説明している。飛行機に間に合わないから急いでくれ、と言ってるらしい。運転手もしばらく話して納得したようだ。それを確認すると、彼女は駅を出て最初の信号停止で降りると言い出した。

「ドライバーにちゃんと話をしたから大丈夫よ。後でまた連絡ちょうだい」

えー、ここで降りちゃうの。もうちょっと手厚くやってよ。と嘆願するが、自分も学校にあるからと聞き入れてもらえない。話は通じてるから大丈夫よ。
理屈はそうだが、ちょっと心細い。大丈夫かな。彼女がいなくなった途端サボり始めたらどうしよう。

車の外から手を振る彼女を不安な目で見送ったが、走り出して程なく俺の不安は杞憂だったことがわかった。運転手は約束を守り、アクセル全開で高速を飛ばしてゆく。他の車を抜きまくり、きっちり最終案内の5分前に浦東空港に到着した。

すげー、間に合ったよ。




4-44b


04 : 25 : 30 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
4-45.鶏口牛後
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-45

最初に付き合い始めた時にも数日間一緒にいたが、その時はお互いイライラが募って大喧嘩、何となく不安定な気持ちのまま帰国の日を迎えた。しかし1年弱がたった今回は2泊3日と短いながらも密度の濃い時間を過ごすことができた。うまくいってしまえばこういう経験は絆を強くする。雨降って地固まるというわけでもないが、互いに余裕をもって付き合えるようになっていた。

そのまま盛夏が終わり、風に秋の香りが混じり始めた頃、彼女がメッセンジャーで身体の変化を告白してきた。

「I’m getting fat in these days.(最近、太ってきたの)」
「Oh my pig, are you sure? (えぇ、それホント?)」

“ブタが太ったのか”

心の中で別の自分が問いかける。いや、それを言ったらまずいだろ。
俺はつとめて冷静に返事を返す。

「食べ過ぎなんだよ、夕食を」
「違う、アイスクリームの食べ過ぎよ。今年の夏は暑かったからずっと食べてたの」

一体どれだけのアイスを食べたのやらと思いながら、

「ダイエットしなきゃね」

と話を結んでその日はログオフした。



その数日後、再びオンラインで会った彼女は興奮していた。

「ねぇ聞いてよ、凄いこと思いついたの」

そして返信を送る前に次のメッセージ。

「最近ダイエットで寒天食べてるんだけど、これを飲み物にしたら売れると思うの」

それは日本にすでにあるような。

「中国にはそういうのはないの?」
「ないのよ。女の子は皆ダイエットが好きだから、そういう飲み物があったら買うはずよ。しかも寒天なんて安いでしょ。ジュースみたいな値段で売ったら大儲けよ」

いきなりそこまで話を組み立てていくのが華僑の血というものか。

「ね、一緒にやらない?」

俺もやるのかよ。

話の進展に追いつけなくてやや引き気味な俺。

「まぁ面白いけれど、そんなうまく行かないんじゃないかなぁ。よく調べようよ」
「大丈夫よ。中国で有名なパン屋があってね、彼は自分の屋台から商売を大きくしてあっという間に金持ちになったのよ。それと同じよ」
「そうかなぁ」
「ここは中国よ、頑張れば絶対成功できるわ」

言い切ったよ。なんなんだこのポジティブ思考は。アメリカンドリームも顔負けだ。こういう楽観性が成長しつつある国というものなんだろうか。

まぁでも、商売もいいけどまずは痩せろよな。




4-45b



04 : 26 : 43 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-46.えびせん
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-46

寒天とは関係ないが、俺が上海をうろうろするようになって不思議に思ったことがある。コンビニには日本の飲料やらスナックやらが沢山売られているんだけど、「かっぱえびせん」が見当たらないのだ。

日本ではもう何十年も続いた定番商品として、どこのコンビにも必ず置いてあるのに上海には見当たらない。でもエビは中国人の大好物の一つだ。中華で必ず出てくるし、俺も彼女と一緒に一緒にいるとエビやザリガニなんかの甲殻類を食べることが多い。

なぜ、エビのテイスト一杯のスナック菓子がここ上海で売られていないんだろう?もしかしてカルビーが中国進出できていないだけかな。そしたら俺が「かっぱびせん輸入業」を立ち上げたら大儲けできるかな。

いや、そんなピンポイントな商売うまくいくわけがない。

とはいうものの、何となく気になったので次に上海に行くときにかっぱえびせんを一袋持って行って彼女に食べさせてみた。彼女もかっぱえびせんは見たことがないと言っていた。

「エビのスナックなんだよ」
「へぇ~」

なんて会話をしながら袋を開けて一口。

「あ、美味しい」

来たよ、来ましたよ。
やっぱり中国人の琴線に触れるんだよこの味は。

俺は金の鉱脈を発見したという予感に震えた。何しろかっぱえびせんは “やめられないとまらない” だからね。10億人が皆 “やめられないとまらない” になったらどうしよう。一人一袋100円を買っただけでもう1,000億円だよ。毎日1袋で年36.5兆円、アバウト40兆円ですよ。ごっついなぁこの商売は。

しかし、彼女はそれほど執着しなかった。しばらくすると他のお菓子も食べはじめ、夜になって見てみたら残してる。

なんてこった、“やめられないとまらない” になってないじゃないか。どうしたんだろう一体。カルビーの魔力は大陸では通用しないんだろうか?

40兆円市場に未練がある俺は、恐る恐る彼女に聞いてみた。

「ねぇ、何でこれ残したの?美味しくなかった?」
「ん?美味しかったわよ」
「じゃぁ何で残すの」

心なしか詰問調の俺。
そんな俺の緊張をよそに、彼女はテンションが低いまま答えた。

「何ていうかなぁ。やっぱり、エビは殻を剥いて食べる方が美味しいのよね」

ええ~。

説得力があるその理屈に、俺は返す言葉もなかった。




4-46b



04 : 27 : 52 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-47.七宝
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-47

さて、そんなこんなで季節はだんだんと秋に変わりつつある。

真夏の旅行で味をしめた俺たちは、またちょっと遠出をしようかという話になった。で、割合手ごろなところということで選んだのが七宝 (qī bǎo) だ。上海の近郊には古い街並みが残っているところが多いんだけど、その中でも上海に近いのがこの街だそうだ。

場所は上海の西。結構近いのでタクシーという案もあったが、ちょっと距離がよくわからなかったので地下鉄で近くまで行くことにする。1号線に乗って外环路まで行き、そこからタクシー。地下鉄の駅までもタクシー使ってるから、なんだかタクシーで最初から行けばよかったかなと話しながら七宝の街中へ。

ここは食べ物やが多いのよ。と彼女が言う。

「七はと一緒の発音だからね」

ホントかなぁ。大食いの人間が言うと言い訳にしか聞こえない。
一体ここで何を食べたいんだい君は。

二人で一緒に街中に入る。蘇州と違って小じんまりした街は人でごった返している。入り口から少し入ったところに見世物小屋みたいなものがある。奇怪なものが陳列してあるそうだ。彼女が目を輝かせて言う。

「ね、入ってみない?」

はっきり言って子供だましでしょう、こういうのは。
っていうか、観光地まできて何でこんなもの見なきゃならないの。ご当地と全然関係ないでしょう。観光でこんなもの見る人なんかいないよ。と、俺は思ったんだが、結局押し切られて入るハメに。値段は二人で10RMBだ。

果たして中に外国人観光客はいなかった。でも、想像よりずっと多くの中国人が興味深そうに展示物を眺めていた。君たちはいいのかこれで。と呆れて横を見ると、俺の彼女もその一味になり下がっていた。

二人で、つめが凄く伸びた人とか、寄生虫とか、頭が二つある蛇とかを見て回る。まぁ確かに珍しいもんだし、面白いよね。ホンモノだし。でも、何故七宝でこれを見なきゃならないのか全然わからない。しかも一番最初に。

一通り見物を終えて建物を出る。

「面白かったわね」と言う彼女に
「うん」

と頷いて返事した時、俺はまたちょっと中国人化してしまった自分を感じた。




4-47b



04 : 30 : 32 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-48.重い軽食
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-48

さて、世の中の奇怪なもの博物館を見た後は、いよいよ食べ歩きツアーの開始だ。
食欲を無くすようなものを見た直後だけど、彼女の食欲はビクともしない。

通路の両側が全部、いろんな食べ物を売っている店。みんな、通りを通る観光客を大声で呼び止めて自分の商品を売ろうと懸命だ。最初の角を曲がるところで彼女がまず最初のお買い物。何かのせんべいみたいなものだ。その場で揚げているのを袋に詰めて購入。でもその袋、ちょっと大きくないですか。

次に買ったのが腐豆腐。店の周りからしてもう強烈な匂いだ。彼女は俺用に一つ買って皿ごと渡す。ノルマかよこれ。一体何の罰ゲームだ。臭いけど食べてみたら美味しいって人もいるらしいけど、俺は味なんか感じられなかった。納豆も食べられない人間にとってはかなりキツイ食物だ。

口直しにせんべいをパクつきながら街の奥へと入ってゆく。次に彼女が目をつけたのが団子屋?だ。白い団子をお湯で茹でて食べさせている。店の奥の方に席があり、そこで食べれるらしい。団子の中身は肉だったり、あんこだったりと、いろんなバリエーションがある。

彼女が注文を始める、いろいろ選んで迷ってるみたいだ。随分と長く話をしたあと、店内に入り席に陣取る。しばらくして彼女の注文した分が運ばれてきた。見て愕然。もうてんこ盛りである。少なくとも10個以上はありそうだ。

「さ、どんどん食べて」

と彼女が俺を促して、自分も団子を小皿に入れて食べ始める。
俺も1つを小皿に入れて食べ始めたが、どう考えてもこれ全部は無理だ。夕食がこれでもOKなくらいの量だ。代金が結構な金額になってたのはこの量のせいか。

黙って食べていたがだんだん腹が立ってきたので文句を言い始める。 不平则鸣、不満があったら溜めないのが今の俺の原則だ。

「大体、この量は何なんだよ、ここで夕食を済ますつもりかよ?」
「だって、いろんな種類試したかったんだもの」
「二人で食べるんだから限界あるのわかってるだろう。お前が全部食べれないんだったら誰が食うんだこんな量。I can’t understand why you did such crazy order!」

足を組んで大声で言い、そのままそっぽを向く。ちょっと芝居がかった仕草だが、勢いでここまでやってしまった。隣の家族連れが俺の声に驚いてこっちを振り返る。やりすぎだったかな、と内心どきどきしたが、やってしまったものはしょうがない。理は我にあるのだ、と自分に言い聞かせる。

しばしの沈黙の後、反論する理屈を作れなかった彼女が負けを認めた。

「ごめんなさい、確かに注文多すぎたわ。もう出ましょ。お腹いっぱいだわ」



4-48b



04 : 34 : 29 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-49.箱庭散策
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-49

食べきれない注文をした彼女をこっぴどく怒鳴った俺。彼女は自分の非を認めたが、俺も内心やりすぎたかとどきどきしている。日本的な感覚だとここまでブチ切れると切れた方も何となく気まづい。

でも、それは杞憂だったのかもしれない。彼女は店を出てしばらくは大人しかったが、次の角を曲がるころにはいつもの調子を取り戻していた。

二人で喋りながらそのまま道を歩いてゆくとすぐに水路に出た。その向こうを少し歩くともう街の端だ。

「小っさ!」

思わず二人で顔を見合わせる。なんだこりゃ、まだ着いてから小一時間しか経ってないのにほとんど見れちゃったよ。チーバオのチーは小さいの“ちぃ”だったのか(いや、そんなはずはない)。

実際、食べ物屋でもっといろいろ食べたり喋ったりしてまったりしていかないと、半日つぶすのすら難しそうだ。それなりの時間をかけてここまでやってきたのに、小一時間でここを離れるのはさすがに勿体無いので、二人で街に戻り、何かすることがないか探し始めた。

そうだ、ボートに乗ろう。

街の中央を横切る水路はボートで遊覧できるようになっている。丁度俺たちが渡った橋のたもとがボート乗り場だ。早速水辺に下りて船頭に話しかける。どうやら向こうの切符売り場で切符を買う必要があるらしい。生憎細かいのがなかったので、彼女に100RMB札を渡して切符を買いにいかせる。

切符売りの店員は老婆だったが、彼女が出した100RMB札を見て怒り始めた。高額紙幣を出したのが気に入らなかったらしい。つり銭がないのだろう。しかしそれにしても、なかなかのキレ具合だ。遠目に見ていても迫力が伝わってくる。先ほどの俺の罵声など足元にもおよばない怒りぶりなのである。

確かにこういう場所で高額紙幣を出すのは悪かったが、観光客のすることだ、多少の非礼は大目に見てくれてもいいじゃないか。しかも料金は二人で20RMBだ。1RMBや2RMBのために100RMB札を出した訳ではない。そこでこの罵声はいささか理不尽ではなかろうか。

彼女は自分の財布を出して中を探り、20RMB札を老婆に差し出した。老婆は当然の様にそれを受け取り、チケットを彼女に渡す。可哀想に彼女は今日はツイてない。俺に怒鳴られた10分後にはチケット売りの老婆に怒鳴られるなんて。

「何かわかんないけど凄い怒ってた」 
「何でだろうね、ひどいよね」

ぼやく彼女に同情の声を投げかけながらボートに乗り込む。

ボートは子供だましだった。
水路はほぼ直線で、実はそんなに長さもない。ずーっと進んで橋をくぐったかと思ったらすぐに行き止まり、Uターンして戻り、街の中心を抜けるとこちらもすぐに木のフェンスに阻まれる。結局、ボート乗り場の橋の上から見える範囲を一往復しただけでお終いとなった。二人で一生懸命ベニス気分に浸ろうとしたんだけど、今ひとつ感情移入できないままゴールになってしまったのだった。

なんだかなぁ。
じゃぁそろそろ帰りますかねぇ。



4-49b



04 : 35 : 32 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-50.交渉次第
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-50

帰りは彼女の提案でタクシーで上海市内まで。俺も同感だ。このくらいの距離だったら大したことないだろう。そもそもタクシー代は日本と比較したらやたら安いのだ。時刻は5時前。七宝には1時間半くらいいた計算になる。

タクシーで行くと結構すんなり市の中心部が近づいてきた。やっぱり近い。最初からタクシーにしておけばよかったかな。徐々に日が陰ってゆく中で、彼女と話をする。夕食何食べようか。七宝でさんざん食べていたので食べれるのかなぁと思いながらも、この時間ですることといったらまずは夕食なのでその話をせざるを得ない。

話をしているうちに彼女が突然何かを思い出したように叫ぶ。

「そうだ、ベトナム料理なんかどう?」

中国でASEANの料理という設定は微妙だけどベトナム料理自体は好きだ。彼女の話によれば上海市の中心部に行く道すがらに結構良い店があるんだそうだ。そう、じゃぁそれにしてみようか。最近料理がややマンネリ気味だったもんね。

彼女が道順を指示してレストランに向かう。指示というより相談といった方が近い。いろいろと会話をして、二人で共通の結論に到達したような感じだった。で、タクシーを降りて店に向かう。ははぁ、なかなかおしゃれな感じじゃないですか。

しかし残念ながら時間が早かった。まだ店は準備中だ。

しかし彼女は諦めず交渉し、1階の隅の席で待たせて貰えることになった。しかも飲み物と簡単な料理まで付いてくる。ビールを頼んで、つまみ代わりに生春巻きなんかを食べながら、本式の開店を待つ。



開店時刻になると店員が話しかけてきた。もっといろんな料理を注文できるらしい。彼女が店員に何かを相談している。しばらくすると、その店員が階段を上って2階に上がり、また戻ってきた。大丈夫だ、というようなことを言っている。

彼女が俺を見て言った。

「席を移りましょ。2階の席の方が落ち着いて話ができるみたい」

そして2階の隅の席に移る。テーブルの上の飲み物や食べ物は当然ながら店員が全部運んでくれる。その後見る間に客が増え、賑やかな雰囲気になったが、俺たちが確保した席はその喧騒からちょっと隔離されたような感じの隠れ家的スペースになっていて、ゆっくりリラックスしながら食事を楽しむことができたのだった。

交渉次第で何でもできる中国万歳、というか、これは彼女の性格によるところが大きいかな。


4-50b



04 : 40 : 55 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-51.上海ロケ
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-51

さて、ゆっくり食事を楽しんだ俺たちだが、まだ夜は宵の口だ。七宝が意外に疲れなかったこともあってエネルギーも十分余っている。何をしようか、何て話をしたが結局また映画でも見ようという話になった。

再び新天地に行き、奥のビルの中に併設されているシネコンに足を運ぶ。ちょうど、M:i:IIIが上映中だった。いいじゃない、これを見ようよ。前回のと違ってこれならメジャータイトルだから楽しめるし、帰って友達にも話ができるよ。

彼女がチケットカウンターで話を聞いている。

「時間がかなり空くみたいだけどどうする?」
「あれ、すぐに始まるんじゃないの?」
「あれは中国語吹き替え版なんだって」
「じゃ、待とうか」

ということで、チケットだけを購入して再び時間つぶしに1階に戻る。新天地内にあるCJWに入り、音楽を聴きながら時間をつぶす。

「あ!あの人知ってる」

彼女が急に叫ぶ。
香港の映画女優が店内にいたらしい。お忍びで来ていたのかな。周囲の客も気づいたらしく、様子を伺っている。ばらばらとサインをねだる人が現れ、女優も応対しているが、そんなに人が殺到するようなことにはならない。比較的平穏なまま、しばらくして店を後にしていった。



夜の11時前になってようやく映画の開始だ。さすがにハリウッドのメジャータイトル、前回見た映画よりはかなり面白い。相変わらず英語は聞き取れないが、アクション映画だから言葉じゃない部分も多いし、中国語字幕の力を借りれば大体のストーリーは理解できた。

唯一の問題は、主人公のイーサン・ハントの名前が字幕で伊三と表示されること。日本語的にはこれは「いぞう」と読んでしまう。で、司馬遼太郎原作『人斬り以蔵』を連想してアタマが時代劇モードになってしまうのだ。俺だけかな。

彼女は彼女で違うところで大興奮だ。この映画、後半の舞台が上海なのだ。ビルの上のアクションではビル名を当ててるし、別の場所への移動シーンでは、この短時間でそんな距離動けるわけないとかツッコミを入れている。

最後は上海郊外の古い街で人質を助けてボスキャラと対決、てな感じになるんだけど、そこのシーンでも大興奮。時代考証がおかしいって。上海郊外の街で、道行く人が皆人民服を着てるなんてあり得ない。ま、そりゃそうだ。

最後のシーンでまた大興奮。

「見た?今の。後ろの川で赤ちゃんを洗っている人がいたわよ。あり得ない!」

ちゃんと映画見てんのかなもう。


4-51b


04 : 42 : 13 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(3) | page top↑
4-52.設備不調
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-52

秋に入って、だんだんシャワーが寒い季節になってきた。

彼女の家のシャワーヘッドはどんどん崩壊が進んでゆく。最初に来始めた頃からパッキンの調子が悪くてシャワーヘッドとホースの接続部から1筋2筋、水が吹き出ていたが、今年の夏前にはそれが何筋も噴出すようになった。そして今では問題の接続部から一筋どころかしっかりとした水流となって四方八方に噴出している。シャワーの指向性というのがだんだん曖昧になってきて、どこに向けてもあんまり関係なくなってきた。

修理した方が良いとは夏前から何度か提案していたんだが、彼女の反応は鈍かった。マンションのオーナーに言えば設備関係の修理はしてもらえるらしいんだけど、修理代金をどっちが持つかが曖昧なので、あまりそういう話をしたくないらしかった。そういえばドアのベルも音が鳴らなくなったまんまだ。ワンルームのマンションだからドアはノックしたら全然問題ないけれども、シャワーヘッドの一件はちょっと種類が違う。

これから寒くなる折にこれだとちゃんとシャワーを浴びれないので、修理代金が必要だったら出すからとせっついたら、ようやく修理の電話をしてくれた。

結果的には修理代金はオーナー持ち。ま、やってみればこんなもんだ。



もう一つ困ったのがトイレットペーパー。

これは設計上の問題で、便座の後ろの壁の狭いスペースに据え付けられているもんだから、座ったままだと物凄く取りにくい。しかも固定が結構ゆるいので、紙を引っ張ろうとしているうちにロールごと出てきてしまって床に落ちるということもたびたび。トイレはシャワーブースの隣で、特にシャワーを使った後なんかは床が濡れているので、落とすと一発で水を吸って駄目になってしまう。

業を煮やした彼女はトイレットペーパーを使わないという暴挙に出た。

用を足したらシャワーを浴びて洗う、という風にしているらしかった。しかし、俺はそれは嫌だった。大体ウンコついてたらどうすんだ。排水の網に詰まるじゃないか。

まぁでもそんな議論してもしょうがないので、俺は自分用のマイ・トイレットペーパーを持参することにした。

残った分は彼女の家に置きっぱなしにして帰るんだけど、シャンプーと違って彼女はトイレットペーパーの方はあれば使ってしまう。これは卑怯だと思うんだけど、どうしようもない。

結局俺は、彼女の家に行く前に上海支社のトイレから1ロール頂戴するのが習慣になってしまった。


4-52b



04 : 45 : 10 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-53.通信手段
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-53

さて、この頃になってきてかなり通信手段が整備されてきた。

まずはSMS。

それまで中国のSMS転送サービスを使っていたんだけど、どうも調子が悪くてちゃんと読めないことが多かった。そもそも説明文やコース別選択画面なんかが全部中国語なので今ひとつよくわからない。一応、使えるところまでは持ってくるんだけれども、トラブルの時とか、もっと使い勝手を良くしたいと思ったときには、言葉が分からないのはやはり不便なのだった。

そこで目をつけたのが来々メール。サイトが日本語なのでバッチリ理解できる。使い勝手もいい感じ。メッセンジャーでチャットはできるけど、オンラインになっていない時に連絡をとるのに凄く便利だ。というわけで、1ヶ月後には定額制プランに切り替えて、俺たちの愛用サービスになった。



もう一つの進化は携帯電話。

それまでの携帯は日本国内専用だった。中国では現地で買ったGSM携帯を使って連絡を取り合う。でも、そうなると今度は日本との通話ができないので、空港で海外携帯電話をレンタルしていたのだ。結局、3台の携帯を持たなければならなくなって結構面倒くさかった。

そこで今回、新しい携帯に買い換える時に海外ローミングができる携帯にしてみた。ローミングなので料金は割高なんだけど、そもそも使用頻度がそんなに多くないから問題はない。中国内では彼女と会うまでしか使わないのだ。会ったら寝ても覚めても一緒だからね。

また、日本からの電話がそのままの番号でとれるのもいい。週末に上司から電話が入ったりしても安心だ。街の音が聞こえない静かな室内だと、俺が上海にいることを相手が気づかないまま電話を終えることもあった。もちろんメールも日本と同じように読める。ケータイサイトも普通に使える。

さらに、来々メールの登録アドレスと携帯のアドレスにしておくと、上海の地でも、日本の携帯と彼女の携帯とでSMSを交し合うことができるのだった。ということで、1年以上使ってきた中国ローカル携帯はお役御免。レンタル携帯も借りなくなって、1台の携帯で日本も上海もこなせるようになった。

便利だし、費用的にもそれほど高額でなかったので安心しきっていたら、ある月、請求がとんでもない金額になっていて目をむいた。

よく調べるとパケット料が凄い。携帯で撮った写真を上海から送ったんだけど、解像度の高い写真だと1枚数百kbするので、送るのに数千円かかってしまうのだった。


4-53b



04 : 47 : 02 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-54.徹底按摩
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-54

さて、秋も深まった上海に再び訪問した俺。

いつもの様に上海支社で仕事をして、トイレでトレットペーパーを1巻こっそり盗んだ俺は、タクシーをとばして彼女のマンションに直行だ。

時間は金曜日の夕方。Uターンさせるのが面倒なので道路の反対側でタクシーを降り、横断歩道を渡って、向かいのスーパーの前の人ごみを抜ける。周囲はもう薄暗くなっていて、行き交う人の顔もよく見えない。ここ最近本当に日が短くなってきた。

彼女の部屋で荷物をほどき、まずは夕食。そして腹ごなしに街中をぶらぶら歩きながら次にどうしようか相談だ。近くに公園があって小さい池がある。池の周りのベンチや手すりにたくさんのアベックがたむろしていた。その横を二人で手をつないで歩きながら、彼女がアイデアを出す。
マッサージはどう?、この近くに人気の店があるの。

店に行くと1時間待ち。さすが人気店。二人で近くのバーのオープンテラスで時間つぶし。秋は深まっているけど今日は比較的暖かいので外気が気持ちいい。
夜半近くなって徐々に賑わいがなくなる町並みを眺めているうちに時間になった。

4-54b

マッサージ店の中は薄暗い。廊下を入ると左右に部屋があり、それぞれに6台ほどのベッドがあり客がマッサージを受けている。左側2つめの部屋の暖簾をくぐって中に入る。そこの客は俺たちだけみたいだ。

ベッドは病院の診察室にあるような硬い台のようなもので、高さはちょっと高めだ。まず上着を脱いで差し出されたハンガーにかける。お次は差し出されたカゴにポケットの中の物を全部出さなくてはならない。携帯から財布からパスポートから、あんまり見ず知らずの人に預けたくないものを全部出して渡す。そしてベッドに横になる。彼女は隣のベッドだ。

マッサージ師は男だった。ほぼ暗闇の室内で、ほとんど会話がないまま全身マッサージが始まる。座った状態で足や肩から腕、そして横になって腰から背中といった感じ。結構ハードなマッサージだ。たっぷり2時間にわたる施術を受けて全身がほぐれたところで終了。

ふと横を見ると彼女は爆睡していた。マッサージ師が困ったような声で「小姐、小姐」と声をかけている。すんませんねーこの娘、一旦寝たらなかなか起きないんですよ。

でも今日はまだ良かった。目を閉じて寝てる。

マッサージ師を押しのけて、俺が手荒に彼女を揺するとようやく目を覚ました。
苦笑する店員を尻目に、俺たちは店を後にしたのだった。

4-54c



04 : 48 : 37 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-55.復興公園
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-55

この週末はどうやら夜遊びモードだ。翌日の昼間はぐうたら過ごし、夕食が終ったあたりからエンジンがかかってくる。

まずは復興公園のカラオケ。彼女が友達から紹介されたらしいが、初めて行く店のようだった。店内はビッグエコーとかなり違う。洋館っぽい作りになっていて、1階が大広間の吹き抜けになり、中央の階段を上がって2階に上がる。

最初にコンパクトな作りの二人部屋に案内されたが、彼女は部屋が狭すぎると文句をつける。彼女の我が儘に店員が嫌な顔をするんじゃないかと思ったが、全然問題なく、7-8人が使うような大部屋に案内された。例によってだんだん店員と仲良くなってきている彼女が振り返って俺に言う。

「ここにしましょ、料金は2人部屋のと同じでいいって」

何でも交渉してみるもんなのかねぇ、この国では。

案内してくれた店員がカラオケの操作方法について彼女に指導している。にこにこと笑顔で説明し、彼女の冗談に笑い声が出る。中国人は店員は笑わないなんて誰が言ったんだと思う。

店員が出ていくと、彼女もトイレに行くといって部屋から出ていってしまった。入れ替わりに今度は男の店員が入ってきた。何事かを売り込んでくる。手にもっている冊子を薦めているようだ。見てみると、クーポン券の束。これを買えば値段がお得になるということらしい。中国語が通じないので彼もやりにくそうだ。俺の方も、この店にまた来るかどうか分からないので「不要、謝謝」と断っていると、彼女が戻ってきた。

男が今度は彼女に売り込みを始める。中国語で何か返事をしながら説明に聞き入る彼女。しばらくすると、こちらを振り向いて

「これ、買いましょうよ」
「クーポンでしょ、いらないよ。次にいつ来るかどうかわからないし」

でも彼女は諦めない。

「凄い得なのよ、また来ることにしたらいいじゃない」
「でも余計な金がかかるんだろう」
「お金はいるけど、今日からすぐに使えるから、差引はほとんどゼロになるって」

弁舌さわやかにクーポンを売り込む。自分が金を出しているわけじゃないのに、こういうお得情報自体、彼女の琴線に触れるらしかった。店員と一緒になって薦めてくるのに五月蠅くなり、まぁ持ち出しになる訳じゃないからいいやとOKする俺。

「良い判断だわ」

と褒める彼女。なんだか店員みたいになってるよ君は。


4-55b



04 : 50 : 35 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-56.衡山路
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-56

復興公園のカラオケで土曜深夜を過ごす俺たち。

この店、何が良かったといって、食事が食べ放題なのだ。同じフロアに料理を沢山並べた部屋があって、バイキング形式で何でも食べられる。食べ物から飲み物まで何でも、いくらでも、だ。

彼女にとってはまさにパラダイス。おあつらえ向きとはこのことだ。

さっさと1、2曲歌った後は、早くも食事モードだ。長いこといなくなったと思ったら皿一杯の料理を盛ってきた。再び姿を消し、今度は飲み物。俺の分まで持ってきてくれた。と、店員が後を追って入ってくる。手には温麺の器を持っている。そんなものまであるのかこの店は。っていうか、店員が何故手伝ってるんだ。

で、結局彼女はずっと食べている。あなたも食べたら、と薦められるが俺は夕食で十分なので食べる気にはならない、歌うからいいよ、と誘いを丁寧に断る。さすがにカラオケ屋にいるのでこの断り方は極めて自然だ。俺が歌って、君が食べる。まさにディナーショー状態だ。でも正直、彼女が俺の歌に興味を持っているとは思えなかった。



結局この店には3時間もいた。
腹を一杯に食べて大満足の彼女と、場末で客に聴かれない唄を歌うクラブシンガー気分をたっぷり味わった俺はふらふらと店を出る。

腹ごなしに歩きたいと言うので、向かいの公園の中に入ってみた。薄暗い通路を歩き、街灯の明かりが届きにくいベンチを選んで座る。すぐに彼女が身体をもたせかけ、こちらにタコチューの様になった顔を向けて目をつぶる。

「あれ、public space でそういうことしないんじゃなかったっけ」
「いいのよ、公園の中はpublic space じゃないんだから」

どういう理屈なんだそれは。

まぁとにかく、アベックらしくベンチでいちゃいちゃする。まぁこれはこれでいい感じだ。でも、流石に緑の多いところでは夜の冷え込みが厳しい。薄着だったこともあってだんだんシャレにならなくなってきたので、どこか室内に移動しようという話になった。



タクシーで衡山路に移動。時刻はもう夜半過ぎだ。タクシーを降りた目の前のビルを見上げると、ゲーム施設が集まったようなビルだった。

「ちょうどいい。ここに入ってみよう」

ボーリングやらビリヤードなんかができるフロアまで上がる。まぁ日本の繁華街にもよくあるような作りだ。ボーリングとビリヤードに卓球、そして手前の方にはビデオゲームが数台並んでいる。

さすがに深夜だということもあって、中は閑散としている。それぞれのコーナーに数人の中国人カップルがいる程度だ。さすがに西洋人はいないね。観光で来てこんなところで遊ばないよな確かに。さて、じゃぁ何から遊びますかね~。

上海の長い夜はまだまだ続く。

4-56b



04 : 51 : 38 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-57.誓不甘休
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-57

夜半過ぎ衡山路。俺たちはゲームセンターに遊びに来ていた。

まず近づいたのはビデオゲーム。2人同時にプレイできるガンシューティングゲームなのだが、一方が壊れているので彼女だけで孤軍奮闘。コンティニューを数回繰り返したがそんなに長時間もたずに終了。ま、準備運動には良かったかな。

次は何をしようか。卓球という選択肢もあるんだけど、中国人との卓球勝負は勝負になる気が全然しないのでパス。代わりにボーリングをやろうという話になった。受付で申し込みをして、受付裏側のカウンターで靴を借りる。彼女は靴のサイズが合わないといって何種類かを持ってこさせて試している。

先に靴を履き替えてレーンに向かおうとした時、受付カウンターの中にいた小姐が声をかけてきた。説明しながら小冊子の様なものを見せてくる。またクーポンだ。流行なのかな。淡泊な俺は「不要、謝謝」と言って先を急ぐが、今度は小姐は遅れて歩いてきた彼女に売り込みをかけた。

しばらく店員の話を聞いていた彼女だったが、やがて店員を連れてこっちに歩いてくる。クーポンを買いたいって顔をしてる。

しかし、今回のクーポンはあまりお買い得とは思えなかった。最初に結構な金を払わなくてはならない。それを回収するまでには相当通う必要があるのだ。

「高いよ、一体何ゲームやったら元がとれると思う?14ゲームだよ」
「14ゲームなんてすぐじゃない。今日中にだってできちゃうわ」
「そんなわけないだろ」
「できるわよ、朝までここでゲームしてりゃいいのよ」
「そんなことしたら身体ボロボロになるよ」

もうこうなってくると損得勘定を判断しているというより、「お得」の言葉が麻薬の様に作用しているとしか思えない。彼女のすぐ後ろには店員が立って、俺たちの話の行方を見守っている。今や彼女は店員の代表だ。

口論はまだ続く。店員はずっと彼女の後ろに控えている。騒ぎを聞きつけた店員がまた一人、こちらに寄ってきた。状況的には多勢に無勢でプレッシャーを感じる。金を出すとはいっても数十元で大した額ではない、譲ってしまった方が楽になるのは事実だ。

でも俺は譲らなかった。自分は一旦反対したし、相手の説明は合理的じゃない。理は我にある。ここで折れるのは正義への背信なのである。
誓不甘休(shìbùgānxiū)という言葉があって、これは「絶対あとにはひくもんか」という意味だそうだ。今回の俺はまさにこんな気分だった。

だんだん声が大きくなるが、俺はガンとして譲らない。4、5分口論を続けていると、やがて店員が諦めて持ち場に戻ってゆく。そりゃそうだ。彼女たちだって仕事がある。クーポン一つ売るのにそんなに時間をかけてはいられない。

店員たちを後ろ盾に俺に購入を迫っていた彼女だが、こうなるとハシゴを外されたも同然、急速に腰砕けになる。そして実は意外に崩れ始めると弱い彼女は、ほどなく負けを認めるに至ったのだった。

俺の粘り勝ちだった。


4-57b



04 : 53 : 47 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-58.未明高脂
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-58

ボーリングのスコアは二人とも110~120くらいで下手同士結構良い勝負だ。

2ゲームやって一勝一敗になったところで彼女が疲れたと言い出した。後かたづけをしながら、冗談めかした口調でからかう。

「さっきは朝まで14ゲームやりきるって言ってなかったっけ?」
「確かに無茶だったわね」

“お得”魔法が解けた彼女が冷静に振り返って笑う。まぁ、わかれば良いんだよ。

一通り遊びつくしたのでまた店を出る。時刻はもう午前2時頃だ。さすがの衡山路も徐々にネオンが消え、賑わいがなくなりつつある。二人でぶらぶらと人気のない通りを歩く。繁華街の外れまで歩いて本当に何もなくなってきたので、また河岸を変えようとタクシーに乗る。

「さすがにもう店ないんじゃないの」

と言う。前にいた北京にくらべれば上海は都会だし、深夜まで賑わいがあるが、それでも夜中の2時を回ると街はひっそりとしているように見えた。

「新天地に行こう」

と彼女が言う。

「あそこは1時頃で閉まっちゃうんじゃなかったっけ」
「新天地の中じゃなくて外の店があるわ」

そういえば、深夜営業の台湾料理屋があった。よく行く店だ。

4-58c

果たして夜中の2時半を回ってもその店は明かりが煌々とついていた。意外に客も入っている。二人で奥の個室みたいになっているところを陣取る。メニューを見ながら彼女がつぶやく。

「何食べようかな」

食べんのかよ。

本当にこの小姐の身体はどうなってるんだ。12時前までいたカラオケ屋でさんざん食事をしていたのに、ボーリングしただけでまた食べるなんて。ずうっと満腹状態を続けてないと気がすまないんだろうか。こんな生活を続けてたら肥満か糖尿になってしまうんじゃないだろうか。

「いいじゃないの」

と彼女がふくれる

「お腹が空いたから食べるの。何で物事を単純に考えられないの?」

そして店員を呼ぶと注文を始めた。

彼女に注意しながらも、俺の方も実は腹が減っていたので麺類を注文する。まぁ俺はカラオケで食事しなかったから普通の夜食なんだけど。

彼女の機嫌とりついでにどの麺がお奨めかを聞いてみる。メニューをしばらく吟味していた彼女は、微笑みながら上から2番目の麺を指さした。

「これがいいわ。こってりしていて美味しいわよ」

こってりしていて美味しい、ねぇ。

頭の中でリピートする俺。いやいや、こういう時は考えちゃ駄目だ。

時計を見ると時刻は深夜3時。
脂ぎった上海の夜はようやく更けようとしていた。


4-58b



04 : 56 : 17 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-59.自販機
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-59

浦東国際空港で珍しいものを見つけた。正確に言うと、日本では珍しくないが中国では珍しいもの。飲物の自動販売機だ。空港でチェックインを済ませてセキュリティを通る前の通路にごく自然に置いてあった。

自動販売機があるのは日本だけというジョークがあった。米国では壊して中の小銭を盗む人が多く、中国では人件費が安いので機械より手売りの方が安上がり、ということだった。もっともらしいけど、流通している硬貨に磨耗しているものが多いというのも理由の一つらしい。最近では徐々に増えつつあるらしく、これもその一つだ。多分ガワは日本のと同じで、お金を読み取る部分だけ付け替えているんだろう。

多少の値段の違いはあるが1個平均して10RMBだから日本よりも高い。よく見ると午後の紅茶が500mmペットと350mm缶で同じ値段だったり、何気なく酎ハイやビールが混じっていたりとか、結構ツッコミどころも多い自動販売機だった。

4-59b

さて、改めましてまた出張。

いつもの様に、支社で仕事をして、最後にトイレットペーパーを1本くすねて会社を出る。タクシーで彼女のマンション付近に着く頃にはもう辺りは暗くなってきている。さらに日が短くなったなぁと思いながらマンションに入り、エレベータで上って彼女の部屋に。ノックするが反応がない。もう一度ノック。妙につるつるした壁材の白ずくめの廊下にノックの音がこだまする。でも返事はなし。戸口の前からSMSを送ると、今家に戻る途中だという。

仕方ないのでエレベータで一旦下に下りて、時間をつぶす。前のスーパーは相変わらず人でごった返している。店の前の歩道沿いに露店がいくつか出ている。よく見ると売っているのはアクセサリとか小物の類。スーパーの売り場の一部かと思ったら全然関係なく、人が沢山いるから露店商が集まっているだけのようだった。しかも彼らは明かりを持っていないので、日が暮れて暗くなった今となっては商品も良く見えない。というか、存在そのものがよくわからない。誰か座り込んでる、と思ったら前に商品を並べた露店商だ、てな感じだ。

暇つぶしに露店を一通りチェックしてからマンションに戻る。先ほどと同じようにエレベータを上がり、部屋の前に行きノックを3回。さらに覗き窓から逆に中を覗き込むと、人の動く気配がしてドアが開いた。

入って再会の抱擁。毎回同じ儀式を終えると、荷物を解きながら週末の相談。
さて、今回は何をして過ごそうか。

4-59c



04 : 58 : 40 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-60.デジカメ
2008 / 08 / 03 ( Sun )
4-60

彼女はまた実家に帰っていたらしい。新しい父親と仲直りし、俺が生活を支えるようになってからは頻繁に実家に帰るようになった。学校のほうはどうなってるのかと思うが、まぁ家族と仲良くやるのは悪いことではない。

新しくデジタルカメラを買ったんだそうだ。自分で買ったらしい。デジカメの中古なんか買うもんじゃないぞと言うと、見せてあげるといって俺の座っているソファの脇の箱を取り出し、中からカメラを取り出した。黒いタートルネックの胸元が目立つ。すっきりした服を着ると女性らしさが際立つのでちょっとドキッとする。

渡されたデジカメをみてまたドッキリ。薄型で俺のよりも半分以上薄い。裏の液晶画面も大型で鮮明だ。黒いボディにソニーの文字が誇らしい。型番を見て確信した。こりゃ中古どころか最新型じゃないか。

「一体どうやって手に入れたの?」
「友達が仲介してくれたの、日本からの輸入品よ」

と彼女が言う。箱をさぐって説明書を取り出すと、それは日本語だった。輸入といっても正規ルートではなさそうだ。値段は1,000RMB。日本で売られている価格の半分だ。バッタ屋からの横流し品かな。

その友達に頼めばいつでも手に入るんだそうだ。あなたの分も今度頼んでおいてあげようか、などと言いやがる。彼女の言い方はあまりにも自然だった。ごく普通の中国人の若い女の子の友達関係の中で、こういった違法横流し品を手に入れる機会がごく普通にあるのかもしれなかった。

しかし何とも釈然としない。これは俺の国の製品なんだ、何故本国の人間よりも安い価格でこちらの人間が手に入れられるんだ。彼らが非道いのか、こちらが正直すぎるのか。

「お母さんの写真を見せてあげる」

といって彼女がメモリをから写真を呼び出す。籐製の大きな椅子に中年の婦人が座っている。歳をとっているが細身で凛とした顔立ちはなかなかの美人だ。

「ね、綺麗でしょう」

自分の親なのに臆面もなく彼女が自慢をする。

「私が小さい頃はもっと綺麗だったのよ」

さもありなん。やはりトンビは鷹を生まないのだ。離婚で二人目の旦那という彼女の母親の人生も、この美貌を見てから考えると別の見方になってくる。

「あなたの話もしたのよ」
「え?」
「大丈夫、応援してくれてるわ」

おいおい、一体どんな話をしたんだよ。

さりげないその一言に俺はどん引きしたが、彼女はそんな俺の様子に気づいていないようだった。


4-60b



04 : 59 : 47 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-61.公共料金
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-61

彼女はソニーの最新型デジカメを手に入れていた。日本のパッケージそのままで価格は1,000RMB。怪しげな入手経路だ。製品の機能そのものには全く問題はなかったが、別の意味で大きな問題があった。使い方がわからないのだ。説明書を読めばいいじゃないか、と言うと、顔をしかめて首を振る。

「だって、日本語わからないもの」

なるほど、そういうことか。でも、最近はメーカーのサイトで取扱説明書はダウンロードできるはずだ。早速パソコンを開いてソニーの中国サイトを開く。ユーザーサポートのページに取扱説明書のpdfファイルがあるのを発見したが、ダウンロードにはシリアルナンバーを入力しないといけない。なるほど、メーカー側もちゃんとわかっていらっしゃるようだ。

中国語版は難しそうなので英語版にする。日本のサイトには日本語版と英語版の取り扱い説明書が用意されているのでこちらからダウンロード。日本は性善説で動いている国だから取扱説明書は誰でも自由にダウンロードできる。しかしこういうことをすると共犯扱いになるのかなぁ。説明書のダウンロードは彼女本人でも考えればできることなのでいいと思ったけど、彼女の友達の紹介で俺自身がデジカメを購入するのは止めておいた。



さて、新ネタで一通り楽しんだ後は夕食を食べながら明日のご相談。折角なのでまた日帰り旅行に行こうということになった。相変わらず蘇州が俺たちの成功体験だ。七宝は今ひとつだったので、今度はもうちょっと遠めのところに行くとしよう。

長い夕食の後、別の店にいってアイスクリームを食べ、夜半前に帰宅する。何しろ明日は朝から出発なのであんまり夜更かしはできない。

帰ると最初の彼女がシャワーを浴びる。次いで俺の番。前回修理を頼んでもらったお陰でパッキンからの水漏れもなくなり、シャワーヘッドは本来の仕事をするようになった。いい気分でシャワーを浴びていたのだが、そこで異変が起こった。心なしか水が冷たくなったと思ったら次第に冷水に。おいおい、どうしたんだこりゃ。身体は泡だらけなので止めるわけにもいかない。冷水シャワーを敢行したが、11月の気温の中では厳しいものがあった。

外に出て彼女に状況を説明すると、

「ガス代払ってないから止められたんだわ」

なるほど、ガスが止まったから冷たい水になったんだ。
じゃぁ機械の故障じゃないよね。

ってか、払えよガス代。デジカメ買うよりそっちが先だろ。


4-61b



13 : 36 : 21 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-62.同里
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-62

さて、翌日は日帰りの旅行だ。

上海近郊には古い町並みが残る観光スポットがいくつもあるが、今回訪問するのは同里(tóng lǐ)という街。M:i:IIIのロケで使われた街だ。観光センターがあって、ここから日帰りバスツアーが出ているんだそうだ。

朝9時前に上海体育館の脇にある上海旅遊集散中心に到着。中は人でごった返している。彼女がカウンターに歩み寄り、売り場を教えてもらうと、また別のカウンターに歩いてゆく。待たずに出発できるツアーがあったそうで、いつもと違って早足だ。こういう時はてきぱき動くんだよなぁ。

ちなみに料金は二人で240RMB。チケットを買うとバス乗り場に向かう。建物の裏側の駐車場止まっている沢山のバスから目的の一台を見つけると、タラップを上がった。バスはごく普通の観光バスだった。2×2の座席が並んでいて、シートの感じもあまり日本とは変わらない。中の観光客は大半が中国人だ。

一応、指定席なんだけど、座るのは皆いい加減。仕組みを理解していない人が適当な席に座り、日本だったらその席のチケット持っている人が後から来たらちゃんと注意してどかせるんだけれども、あまりそういう感覚はないようで、席が埋まっていると深く考えずに自分も適当な席に座ってしまう。

最後の方に入ってきた西洋人が自分の席を占拠されているのを見て困惑した表情であたりを見回す。交渉しようにも言葉が通じないので恐る恐るといった調子で空いてる席に腰を下ろした。

しかし不幸なことに次に来た中国人は厳格な性格で、その西洋人カップルに席を移動するように要求する。困り果てた彼らは自分の本来の席に戻って交渉。でも、そこの座っている中国人の正規の席も誰かが既に占拠している。通訳がてら西洋人を助けていた中国人の隣の席の人間まで口出しをして大騒ぎになっている。

と、横に座った彼女の肩を叩く大姐がいる。どうも席を替わって欲しいと言っているようだ。知り合いと近くになりたいらしい。もうお前らこの騒ぎの中でまだ勝手なこと言うのかよ。呆れる俺を尻目に彼女は快くその要求を受け入れ、後ろの方の席に二人で移る。「謝謝」と言いながら大姐が移動してゆくと、すれ違いに先ほどの外国人がやってきて俺たちの後ろの席に陣取った。

各自为政(gèzìwéizhèng)って言葉があって、意味は、「皆が自己流でさっぱり統制がとれないこと」とある。今回のケースはまさにそれ。こんな慣用句があるくらいだから、勝手なことを言う人を見ても、眉をひそめるような人もいない。ごく当たり前の光景なのだ。

そんなこんなで車内の混乱もどうやら一件落着。
バスはようやく出発した。


4-62b



13 : 38 : 02 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-63.洋弓射的
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-63

バスはすぐに高速にのって一路西に向かう。同里は上海虹橋空港の西約80キロ、蘇州の南東約30キロというのでどっちかというと蘇州に近い場所になる。バスでの所要時間は1時間半ほどだ。

ツアーは同里周辺の観光がセットになっている。最初に大きな湖に到着。そこから船に乗り換えて島に移動。羅星洲といって元代から続くお寺がある。何度か立て替えられたらしく小奇麗な寺だ。

島の中では自由行動なので順路に従って勝手に観光。一通り境内を見た後で、奥の庭園を回って船着場に戻る。戻る途中でアーチェリーで射的をやっている露天商がいた。出たよ。この歴史的建造物とアーチェリーが関係ないことは素人の俺にだってわかる。もう雰囲気ぶち壊しだ。

しかし、彼女が興味を示し、やってみたいと言い出した。おいおい、やるのかよ。

蓼食う虫も好き好きというか、何というか。こういうのがいるから露天商も味をしめて商売を続けるのだ。しょうがないので彼女と二人で申し込む。弓1本と矢4本を貸してくれる。これで1元だ。彼女が狙って矢を放つが引きが甘いので的に届く前に失速して地に落ちた。全然駄目駄目じゃんか。とりあえず飛ばないと何にもならないのでしっかり引いて打てと指導する。

他の中国人ツアー客は黙って通路を通り過ぎてゆく。ある意味、恥ずかしい。と、もう一組この露店に興味を示した人々が現れた。出発時に席を取られて路頭に迷っていた西洋人のカップルだ。二人でごちゃごちゃしゃべりながら俺の横で的を狙い始める。女性の方は力がなくて全然飛ばない。男の方はというと、飛ぶんだけど全然的に当たらない。駄目駄目だな君たちは、本国から何千キロも飛んできてこのていたらくかよ。

俺がバシッと的に当てて見せると彼女が歓声を上げる。その声に振り返ったカップルの男の方が俺に英語で話しかけてくる。

「上手いなぁ、ねぇ、狙うときは片目をつぶってる?それとも両目で見てる?」
「片目をつぶるんだよ」

っていうか君、“狙う”って言葉の意味わかってるのか?考えなくても自然に片目つぶるもんじゃないのか、こういうのは。俺の彼女ですら片目で狙ってるぞ??

でも、彼はお構いなしだ。

「片目ってどっちを閉じればいいんだよ」
「左目だよ」

あー面倒くさいなもう。

だいたい何で閉じるほうの目を聞くんだよ。狙う方の目だろ普通は。

ふくれっ面をしながら振り返った俺を見て、彼女が弓矢を持ったまま爆笑していた。


4-63b



13 : 39 : 03 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-64.購買行動
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-64

さて、船着場まで戻ると他のツアー客がそこここに腰を下ろして船を待っている。さわやかな秋の風が吹き抜けて木々を揺らす様が心地よい。やがてやってきた船に乗って元来た場所へ。陸に上がると電気三輪車で同里の街まで移動し、大きな門をくぐって街の中に入った。

同里は1千年の歴史を持つ街だそうで、江南農村風情の代表地として映画のロケにもよく使われている。建物の保存状態も良いらしい。七宝と同じ様にレストランとか売店が並んでいるが、一つ一つに風情を感じる。少し歩くと広い場所に出て、そこを右に少し歩くと水郷が見えてきた。

水郷の脇がずっと道になっていて、そこをゆっくり歩いてゆく。この水郷は凄く綺麗だ。東方のミニ・ベニスと呼ばれていると書いてあるサイトもあったけど、まんざらでもない。七宝よりもずっと規模が大きく、蘇州よりは小ぶりで返って両岸との風景の一体感が強い。ところどころに古い建物があって、文化財らしくいちいち金をとられる。一つ一つの名前は忘れたけど、多分一通り水路脇の建物は見たと思う。

文化財以外にも街自体が面白い、人二人がやっとすれ違えるような細い路地をずぅっと置くまで入ってゆく。時々屋根があったりして建物の中か外なのかわからないところを抜けて二人でずんずん奥に入ってゆくと、古びた家の前に出た。本当に誰かが住んでいるらしく、生活感が漂っている。逆にこっちの方がリアルなものを感じる。

4-64c

二人で好き勝手に街中を探検して回る。また水路の脇まで戻って水路ずたいに歩いてゆく。ほぼ一周したところでまた街区に入る。と、一つの売店に彼女が興味を示した。

その店は書道用具の店だった。全然観光土産と関係ないじゃないかと思うんだけど、普通に店を開いている。彼女は店の奥の方に入り、筆をいくつかとっては試し書きをする。やがて店主が話しかけ、だんだん話が盛り上がってきた。かなりいろんな商品を吟味し、アドバイスを受けながら随分長いこと話し込んでいた。

やっと出てきた彼女に

「同里って筆で有名な街なの?」 と聞くと、
「そんなことないわ。ただ筆が欲しかったので丁度良いかと思って」
「何で観光地で筆なんか買うのかなぁ」
「だって筆ってなかなか売ってないんだもの」

今ひとつ俺の感じた不思議さが理解されず、話が噛み合わないまま、俺たちは遅い昼食をとるためにレストランに入った。

4-64b



13 : 40 : 27 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-65.水郷周遊
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-65

昼食は中国の伝統的な雰囲気たっぷりのレストランだ。
半個室みたいな席に陣取り、食事開始。

旅行に行くと体力を消耗するのか、彼女の食欲はいつもより旺盛だ。普段は昼はほとんど食べないのに、今回も次から次へと注文する。小皿料理を沢山の種類注文してくれるとこちらも少しは楽しめるんだけど、4人前はありそうなスープを二つも注文したりするもんだから憂鬱な気分になる。

彼女の 「これ、美味しいわよ」 的お薦め攻撃を適当にかわしながら胃袋を温存して昼食が終わるのを待つ。お茶を飲んで一段落した後、店を出てまた水郷に戻ると、角の露店で彼女が何かを買っている。戻って来た彼女が持っているのは煮卵2つ。「あなたの分買っておいたわ」 と俺の返事もきかずに1個を押し付けてくる。

これだよ、これがあるから食事終わりで満腹になってちゃいけないんだよ。煮卵丸々1個だよ。

ついにすみきり一杯まで腹が満たされた俺たちは、最後に水路をボートで遊覧しようと考えた。ボート乗り場に向かうが値段は60RMB。あら、結構するもんだねぇ。

元来が6人乗りくらいの大きなボートなのだ、価格はボート1艘の値段なので、他の客と相乗りになれば一人当たりは安くなる。しかし、時間はもう午後遅い時間。ここに来たツアー客はもっと早い時間に水路観光をすませてしまったらしく、この時間にボート乗り場に興味を示す人は全然いない。

彼女はそれでも諦めずボート券売り場の外に出て誰かボートに興味を示す人がいないか探している。下手したら道行く人にボートを勧めかねない雰囲気だ。6人乗りに2人で乗るという事実が、彼女の “もったいないセンサー” を刺激したらしかった。しかし5分待っても客は来ない。

バスの出発時刻も近づいているので、俺がここで大岡裁き。
二人で乗ろうよ。いいよ、高くても。乗る価値はありそうだし。


4-65b

ボートを二人で貸切にして水路を巡る。まぁでも悪くないよこれは。何しろ東洋のベニスだもの。水路から眺める町並みはまた美しく、そのゆっくりとしたスピードが心地よい。鵜飼みたいな人がパフォーマンスをして見せてる脇を抜け、木々に囲まれた水路に入る。中心部から離れて両脇の小道を歩く人もまばらになるところまで進み、そこからまたぐるっと回ってもといた太い水路に戻ってきた。

蘇州は良かったけど、あまりにも暑くて途中から耐久ゲームになってしまった。その点、ここは季節が良かったこともあってかなりいい感じ。それに、旅行をするたびに関係が何とはなしに深まってゆくのを感じる俺だった。


4-65c



13 : 42 : 08 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-66.日式火鍋
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-66

帰りの車内、彼女はさすがに疲れたのか、眠いと言って肩に首を預けてきた。電車の時の様にボックスシートでなく、他の人の目も気にならないので、こちらから彼女の後ろに手を回して肩を抱いた。こういうところはなんだか凄く可愛いと思う。

そのままバスは高速道路をひた走る。秋も深まって気温が低いこともあって、くっついた身体から伝わってくる彼女の体温が心地よい。じきに日が暮れて街が夕闇に包まれてゆくのを見ながら、俺もいつしか眠りに落ちる。再び目を覚ましたのはそろそろ上海体育館が見えてくるかというところまで来たあたり。すっかり日が暮れて周囲は暗くなっていた。

帰り道は少し渋滞につかまったりして時間がかかったらしい、結局、観光センターに到着したのは夜の6時過ぎ。バスを降りると大通りに出てからタクシーを拾って、衡山路のしゃぶしゃぶ屋へ。ここは先日彼女が友達と一緒に来た店なんだそうだ。凄く美味しいし、食べ放題だから良いということだった。

前半はともかく後半部分の理由には納得だ。

この店のもう一ついいところは、お客一人あたり1個の鍋が用意されるということ。ミニチュアのしゃぶしゃぶ鍋みたいなもんなんだけど、完全に自分でコントロールできるというのはポイント高いですよこれは。大食いの中国人に蹂躙されず、俺は俺だけで美しい日本のしゃぶしゃぶを再現するのだ。

実際、鍋を分けて良かった。彼女のしゃぶしゃぶを完全に勘違いしている。出されたものを肉も含めてどさどさと入れて煮込むのだ。あっという間に灰汁(アク)が大量に出てきて、彼女の小鍋は魔女が薬を作ってるかのような様相を呈した。

見るにみかねて手を出す俺。おタマをとって鍋のアクをできるだけ丁寧にすくってやる。でも、彼女は礼も言わない。というか、ありがたみを理解してるのかな。すくったアクを入れた壷をじっと見ている。無礼なのか、料理そのものを理解していないのか微妙な反応だ。

「これは食べるもんじゃないからね」

と念を押す。

「美味しくないからすくってあげてるんだよ」

でも彼女はどっちでも良いみたいだった。肉やら野菜やらをどんどん煮込んでは食べてゆく。肉も牛肉だけでなく、ブタや羊も順々に頼む。サイドオーダーもさんざん食べつくし、最後はおぢやで締めてようやく満足した時には、入店から既に3時間が経過していた。

お互い自分のペースで満足して店を出た二人。時刻はまだ10時過ぎ。このまま帰るにはちょっと早い。どうしようかと聞く彼女に、俺は思いつきでこう提案した。

「海賊版のDVDとか売ってる店ある?見てみたいんだけど」
「いいわよ」

彼女は事もなげに頷いた。


4-66b



13 : 43 : 15 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-67.海賊版
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-67

衡山路のしゃぶしゃぶ店で腹いっぱいになった俺たち。タクシーを拾って向かったのは海賊版DVDを売っているという店だ。

衡山路からタクシーで10分。上海の中心部に近いが、通りの筋が1本違うのか、街行く人も少ない。やや寂れたこの感じが、いかにも海賊版を売ってる店に相応しく感じた。きっとここから路地に入り、さらに地下にもぐったりするに違いない。

ところが予想は簡単に覆された。タクシーを降りてすぐに彼女が前を指差して、「ここよ」と言う。俺は店をみて愕然とした。その店は、人目をはばかる様子もなく、あまりにもあっけらかんと大通り沿いに店を構えていた。ネオンも派手だ。

二人でガラス扉の入り口から入る。そもそも入り口のガラスが透明で、中が丸見えなのだ。本当にこいつら悪いことをしてるという自覚があるんだろうか?と思ってしまう。これじゃ通りから丸見えじゃないか。でも、店内に置いてあるのは明らかに海賊版だ。値段は一枚 7RMBだそうだ。安い。

店の間口は狭く、通路二つ分しかなくて、その通路の両脇に棚が並んでいる。奥行きは結構深く、店内はそれでも意外に広かった。DVDだからスペースをとらないといこともあるが、この売り場を埋める品揃えは大したものだ。昔の名画から最新の映画DVDまで揃っている。米国の人気ドラマのDVDもある。日本のドラマのDVDもある。これが全部一枚 7RMBなんだから恐れ入る。

入り口に平積みの棚がある。ここには最新の映画まである。まだ日本でDVDが発売されていないほど新しい映画だ。店員が何事か彼女に説明している。彼女に聞くと、これは映画館でビデオカメラで撮ったものだそうだ。画像は悪く、新作がどうしても見たい人以外にはお勧めできないという。有難い話だ。違法の手口まで説明してやがる。

店員はレジに一人とその近くにもう一人。彼女が真剣に選んでいるのを見て、声をかけてくる。今のお勧めなんかを話しているらしい。珍しそうに店内を見て回る俺を警戒するかなとちょっと気になったが、かなりテンションは低く、全然俺のことなどどうでも良い感じだった。

結局彼女はここで、都合7枚のDVDを購入した。しめて49RMBなり。

俺にとっては珍しいアトラクションだった。違法DVDショップは島耕作の漫画で見たことあったけど、想像してたのよりもっと普通であっけらかんとしていた。

中国では「上に政策あれば下に対策あり」(上有政策、下有対策)という諺がある。だからKTVも楽しめるし違法DVDも手に入れられる。でもその一方で政治观念という言葉もある。要するにさじ加減、空気読めってことらしい。

この辺りのグレーゾーンの扱い方は、日本でいう阿吽の呼吸みたいなもんで、他の国の人にはなかなか理解しにくい。中国通を気取って分かった振りをするより、信頼できる中国人の友達を作る方が安全なんだろうなと思った。

4-67b



13 : 44 : 10 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-68.期限の月
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-68

そして12月がやってきた。

街中がクリスマスのイルミネーションに包まれる。年の終わりでもあるし、彼女の生活を援助するのも今月が最後になる。再びつきあいを始めた日、俺たちはそういう約束をしたのだ。

あの時はきっぱりと言い切った彼女だったが、実際それに直面したらどうだろう。また金を出さないと言った時に、俺たちの関係は今まで通り続けていけるんだろうか。

いろいろと思うところはあるが、それは心にしまってメールを続ける。どうせ12月が終われば結果は出るのだ。今から騒いで今月の逢瀬をぶち壊しにすることもない。



いつもの様にトイレットペーパーを取りに上海支社に立ち寄る。
ついでにちょっと仕事をして、それから目指すは彼女のマンションだ。

冬至間近の太陽はそそくさと定時退社をしてしまい、あたりは急速に暗くなる。薄暗いスーパーマーケットの前を露天商の商品を踏まないように気をつけながら歩いてマンションの前に。今回はここを通りすぎて、隣のビルに向かう。隣のビルの1Fは美容院だ。ガラス張りの店内を透かしてみると、奥の方で髪をいじってもらっている彼女の姿が見えた。

ちょっと用事があるというSMSが来ていたので、もしやと思ったら大当たりだ。彼女は本当に美容院が好きだ。先日チャットで話した時には、数日に1回は行っていると話していた。髪を切るのではなく、洗って手入れをしてもらっているらしい。贅沢な話だ。一時期は確かに金に困っていたようだが、先月くらいから目に見えて贅沢に走るようになった。

店の前から彼女にSMSを打つ。

「もしかしてヘアーサロンにいる?」
「え?どうしてわかったの」
「君の事は何でもお見通しだよ」

からかいながら美容院の正面のガードに腰をかける。スーツ姿をコートに包み、足元にはキャスター付バッグを置いたまま、ガードレールに座って足をぶらぶらさせている。人通りはあるんだけど、薄暗いせいか、誰も俺のことを気にとめない。そうこうするうちに施術が終わったようで、店員が片づけをはじめた。早速またSMSだ。

「そろそろ終わった?」
「何よ、どうしたの一体?気味が悪いわ」
「瞳を開ければ君の姿が浮かぶのさ」
「何言ってるのよ」

普通に照れてやがる。瞳を “開ければ” って書いたのに気づいてないみたいだ。

しばらくすると清算を終えて彼女が店から出てくる。うつむいて歩く彼女の前に不意に立ちはだかり、「ニイハオ」と言う。はっと顔を上げた彼女が「~」と叫んだ。

とっさに出たその叫びは、多分中国語だった。


4-68b



13 : 45 : 13 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-69.就職決定
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-69

翌日はだらだらと過ごす。

12月は日本での仕事が忙しく、やや疲れ気味だったのだ。この前旅行に行って頑張ったこともあるし、今回はぐうたらな週末にしたいと申し出ていた。もしかしたら最後になるかもしれない逢瀬だったが、だらだら上海も俺たちらしくていいかなと思った。

昼過ぎから街に出る。ちょっと違う場所にということで、デパートに行ってみる。久光というデパートだ。少し手前でタクシーを降りて、二人でぶらぶらと歩いてゆく。12月にしては暖かく晴れた日で、外を歩くのが心地よい。

久光は結構大きなデパートだ。来るのは初めてだが、俺が愛読している上海在住の日本人のブログでよく出てくるので何となく親しみがある。駐在の人と同じ場所に来ちゃったよ、小姐同伴で。出張組にしては結構頑張ったよなぁ俺も。

彼女がお腹が空いたというので、まず地下の食品売り場でスナックを探す。小腹が空いた程度のはずなのに、買うお菓子が一つじゃないのが彼女らしい。レジの小姐は俺の分だと思ってるだろうが、全部彼女の分なのだ。

折角なので上の階にも上がり、売り場を見て回る。歩きながら彼女が話し始める。

「もしかしたら私、上海を離れるかもしれない」
「郷里に帰るの?」

親と仲直りしていたと言っていたのを思い出してそう聞くと、彼女は首を振る。

「父の会社を手伝うかもしれない」
「商売やってるんだっけ?」
「旅行代理店なの。今度、新しい支店を出すのでそこに来ないかって」
「どこ?」
「西安」

おぉ、随分と遠いねそれは。

「いつから?」
「来年の半ばには向こうに行くことになるかもしれない」

上海から西安ってどうやって行けばいいんだろう。そもそも出張のついでに行けるところじゃないんじゃないか。と考えていると、彼女が不意に立ち止まって俺を目を真っ直ぐ見つめる。

「向こうに行っても会える?逢いに来てくれる?」

まさにちょうどそのことを考えていた。でも、正直かなり大変な話になりそうだ。何しろ西安には仕事がない、事務所もない。事務所を出す計画すらない。上海に住んでいればそこから通いもありだけど、日本から上海経由というのは結構大変かもしれない。

「考えるよ」

そう短く答えて視線をそらした。


4-69b



13 : 46 : 09 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-70.我行我素
2008 / 08 / 09 ( Sat )
4-70

週末の昼下がり、二人で久光の売り場をぶらぶら見て回る。普通女の子と一緒にデパートなんかにいくってことは、ウインドウショッピングに付き合わされるってことなんだけど、彼女の場合は服にもアクセサリーにもほとんど興味を示さない。何にも絡まないもんだからあっという間に全てのフロアを見終えてしまった。

「ウインドウショッピングとかしないの?」
「だって買いたいものないもの」

取り付く島もないが、別に怒っている訳でもない。普通に興味がないようだ。

「じゃぁ何のために来たんだよ」
「あなたが来たいって言ったんじゃない」

まさにその通りだ。返す言葉もない。

「私はお菓子を買ったからもう十分」

結局それかよ。

まだ午後も早い時間だ、これから一体何をしようか。途方に暮れる俺に彼女が助け舟。

「じゃ、またカラオケ行こうか」

ということで復興公園のカラオケへレッツゴー。

冬にしては暖かい日差しの日で、外にいると気持ちが良いんだけれども、そんなものにはお構いなしに窓もないカラオケボックスに潜りこむ。で、そこで何をするかというと彼女は食べている。久光で買ったスナック類はタクシーの中で半分くらい胃袋に消えているので、足りない分はバイキングから持ってきた料理だ。で、俺は歌い続ける。日本の歌を。

歌の合間には中国の歌手らしき人のコンサート映像が流れている。見ると小太りの男のようだ。ぎらぎらの衣装を着ている。日本で言えば紅白に出てくる大物歌手みたいな趣だ。ラップ調の歌を踊りながら歌う若いグループとは訳が違う、重厚感が漂っている。イントロが終わって歌が始まる。凄い高い声だ。

「すごいボーイソプラノだね彼は、有名な人?」
「彼じゃなくて彼女よ」
「ええっ?」

目をこらして良く見るが、見れば見るほど微妙な姿だ。

「だって角刈りじゃない」
「ショートヘアっていうのよ」

そうじゃないだろこれは。っていうか、江原啓之に似てるんだけど。とツッコミたかったが彼女に通じるとは思えなかった。

また彼女が部屋を出て料理を漁ってくる。ここに来てずっと食べ続けだ。そろそろ夕方だけど、この後、夕食に行くつもりなんだろうか?他人事ながら心配になり、思わず子供を諭すような言葉が口をつく。

「夕食前にあんまり食べちゃ駄目だよ」
「いいじゃないの、私の勝手でしょ」

志村けんの替え歌みたいなことを言いながら彼女がラーメンをすする。
そう、ここは個人主義の国なのだった。


4-70b


13 : 47 : 08 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
| ホーム | 次ページ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。