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4-21.天理人情
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-21

彼女からはすぐに返事が来た。最初の文章は、

「I find something back with your sincere words」(気持ちは伝わったわ)

そして再びメールのやり取りが始まった。

雪解けが進む中、俺は次の出張を心待ちにする。上海支社からの連絡が来ると、すかさず日程の調整に入る。

相変わらずの上海支社は水曜日のミーティングなどを指定してきやがる。Yがいなくなってから本当に駄目になったよなここは。全然わかってないよ。出張てぇのは週末にくっつけるのが礼儀だろアホンダラ。

直裁的な言葉は使わずに間接的表現を駆使しながら日程を週末にずらしてゆく。台湾人の担当者が

「最近は忙しいみたいだね、Cheers!」

とメールを寄越す。

「人生いろいろ、仕事もいろいろ、だね」

と意味不明なメールを返信して煙に巻く。だんだん俺も大人物になってきたかな。

一方、彼女の方は、ここ数日間忙しかったようだ。犬猿の仲だった父親が上海に来て、彼女の家に初めて訪問したらしい。彼女の母親は離婚して、最近再婚した。彼女は新しい父親に馴染めないでいたのだ。昨年別れ話でもめている最中に父親から電話が入り、ぼろぼろと涙をこぼしていたのを思い出す。でも、あれから半年近く経って、ようやく父親が自分のことを気にかけていてくれたことが理解できたんだそうだ。

悪い時には悪いことが立て続けに起こる。良い時には良いことが重なる。それは偶然なのか、中国特有の神秘的な信仰の為せる技なのか、あるいは単なる嘘なのか。

ある文化論の本によれば、中国人にとって肉体は仮のもの。彼らの本質はその背後にある。本質があやつり人形のように肉体を動かし、言葉を発生させる。肉体は現実世界に対応しなければならない。自分の肉体をうまく現実世界に合わせて動かすことが、よくできた振る舞いとされるそうだ。だから彼らは嘘を道具か潤滑油のように使う。

本当かどうかは知らないが、それが文化だというなら受け入れるしかない。

***

そして出張最終日。相変わらずプライベートには無関心な支社の連中に別れを告げ、まだ日が陰る前に彼女のマンションに到着する。部屋の呼び鈴は相変わらず壊れたまんまだ。ドアをノックして覗き穴から逆に部屋の中を覗く、ほどなく人影が近づくのが見え、ドアが派手なきしみ音を立てて開いた。

中には目を輝かして立っている彼女の姿があった。



4-21b



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4-22.仕切直し
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-22

お互いに抱き合って再開を喜ぶ。ここまでは前回と同じだ。

重要なのはここから、条件交渉をきっちりやる必要がある。そうは言っても金の話。前回うやむやだった点をどこまで詰め切れるかが問題だ。彼女もそこは理解しているらしく、荷物をほどく俺を黙って待っている。そしてソファに二人で並んで腰を下ろし、話をはじめた。

今回は彼女の方からちゃんと話をしはじめた。KTVで働くのはもうイヤ、勉強や昼間の仕事に自分の力を使いたい。といったことを切々と語る。メールでこの種の話を聞くことはあったが、直接顔を合わせての会話で“I need your help”という言葉をはっきり聞いたのは始めてだ。

かなりの好感触だったが、気持ちをゆるめず、いくら必要なのかと聞いてみる。金額は前回と同じ。内容についてはやはり説明したくないのか詳しい話はない。でもその代わり、期限について明言してきた。資格を取るまでの間だけでいいわ。後は自分の責任で何とかするから。と彼女は言い切る。

「具体的にはいつまで?」
「今年一杯」
「あれ?来年3月までじゃなかったっけ?」
「大丈夫、何とかするから」

何かしら自分の中で決断をしたような口調だった。

なるほど、これは相当に譲歩してきた。話の仕方も内容もだ。金額については相変わらずよく分からないが、期間が限定されたのは大きな進展だ。総額についても実際のところ相当負担は軽い。同じ今年末までと考えても、去年話をした時と比べてかなり月日が経っている。少なくとも援助を止めて喧嘩を続けていたこの数ヶ月分の金額は浮いているわけで、それだけでも去年の秋に話をしていた時から半額近くに減った計算になる。

それに、彼女とつき合うことで少なくとも英語は相当に上達したのも事実だ。残念ながら中国語は未だにいまいちだけれども、中国人や中国文化の理解は進んだ気がする。これからまた一緒につき合えば、さらにいろいろなことを知ることもできるかもしれない。どうやって金額換算できるかはよくわからないが、少なくとも英語だけとってみても、日本で英語学校にみっちり通うことを考えたら、とりわけ割高だとも思えない。

合理的に考えて、この話は受け入れられる。
後で後悔しないだけの理屈が自分の中で通った気がした。

「OK」

俺は彼女の方を振り向いて言った。

「That’s a deal.(交渉成立だ)」

息を殺して俺の返事を伺っていた彼女の口から安堵のため息がもれ、笑顔が広がった。



4-22b



02 : 05 : 46 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-23.視点相違
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-23

話をしているうちにすっかり日が暮れてしまった。二人で一緒にマンションを出て、タクシーで浦東に向かう。その日の夕食はシャングリラホテルでバイキングだ。彼女はフードファイター並みの大食漢だけど、国際チェーンのホテルなら彼女がいくら食べても倒産の心配はないだろう。いい選択だ。

二人で皿をもって料理を選ぶ。だいたい俺が一皿に入れる間に彼女は二皿分料理をとる。時々彼女は自分のとった料理が美味しいので一緒に食べようと誘う。全部断ると感じが悪いので何回かに一回はご相伴に預からなくてはならない。そういうことも考えて一皿目の料理は腹八分目くらいに盛っておく。彼女は、そんな俺の前で二皿をぺろりと平らげ、別の料理をもう一皿。ついでにスープなんかもとってくる。

そしてデザートは別腹なのでまた二皿。シャングリラはさすがにホテルだけあって、バリエーションも豊富だ。まさか綿菓子まで食べられるとは思わなかった。彼女はデザートを食べるとまたお腹が空いてきたのかメインの肉料理をまた取りに行く。この辺りから食事の順番が壊れていっていつ終わりになるのか先が見えなくなってくる。

彼女の「これ美味しいわよ」攻撃で徐々にダメージを受けながらも3時間後に彼女と同じタイミングで満腹になることに成功した時、俺は大きな達成感を覚えた。人間は学習できる。今回は前回よりももっとうまく付き合えるだろう。これはその一歩目だ。

ちなみに料金は二人で600RMB。値段はそれなりだけど、食った量を考えたら悪くない。

部屋にもどってシャワーを浴びる。自分用のシャンプーとシャワージェルはまだ残っていた。シャワーヘッドは春先から較べてパッキンがヘタッて来たようだ。本来出るべきじゃないところからぴゅーぴゅーお湯が出ている。修理すればいいのにと思いながらも黙って身体を洗う俺だった。

薄暗いベッドの中で彼女がむしゃぶりついてきた。俺の上に覆い被さって、

「I thought you were playing with me」

とつぶやいた。そして顔にキスの雨を降らせる。もう闇雲。そして再び、

「I thought you were playing with me」(遊ばれてるんだと思ってた)

泣いてるのかなとも思ったけど、暗くてよくわからない。

彼女から見ると俺はプレイボーイだったんだろうか、適当に遊んで、面倒くさくなったから捨ててしまうという人間に見えていたんだろうか。俺自身はそういう人間ではない。本当に悩んでいたのだ。逆に、援助再開を決めた今日の決断こそ打算に満ちた判断だった。これこそ蔑まれるべき行為だ。なのにそれが一番彼女を感動させてしまった。

これはあげる側と貰う側の立場の違いなのか、それとも文化の違いというものか。
愛情一杯に絡みつく彼女を嬉しく思いながらも、不思議な違和感を感じた俺だった。



4-23b


02 : 06 : 47 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-24.电影院
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-24

翌日は午後になってから新天地に遊びに行く。街を歩きながら何をしようかご相談だ。

彼女は映画を見たいと言う。えぇ~、映画かよと逃げ腰の俺。大丈夫よ洋画だったら英語だから。と説得されるが、まだ逃げ腰の俺。じゃぁ他に何をするのよ、と追い詰められてようやく首を縦に振った。

新天地の一番奥のビルの5階が映画館だ。階の半分がシネコンになっている。映画の看板がいくつかある中から彼女が素早く一つを選ぶ。確かに洋画らしいけれども、聞いたことない映画だ。あんまり面白くなさそうだなぁ、と、どんよりした気持ちになってくる。

奥の方にチケットカウンターがある。上に電光掲示板があって上映時間が表示されている。彼女が店員と話をしているのをすぐ後ろに立って聞いている。同じ映画でも二種類あって、中国語吹き替え版もあるみたいだ。

映画を指定すると、次に席の指定。カウンターにCRTが埋め込まれていて、座席表が表示されている。その中から選ぶわけだ。じっくり選んで席を決める。えらく時間がかかってるんだけど、チケットカウンターの周りは閑散としているので他の客の迷惑になるようなこともなさそうだった。

料金は二人で120RMB。あら、結構高いんだねぇ。

昼食を食べていないので腹が減った俺は、時間があるので売店でサンドイッチと飲み物を買う。ここで抜き打ちの中国語テストだ。店員が値段を言ったのに彼女は何も答えず、こちらを見て「ほら、答えなさいよ」というように目配せした。

しょうがないのでもう一度聞く。聴き取り半分推理半分で10RMB札を出すが違ったみたいだ。店員と彼女が顔を見合わせた。

「24RMBよ」

と言われてあわてて後2枚を出す。

「十って言ってた?聞き取れなかったけど」
「確かにちゃんと発音してなかったわ。でもよくあることでしょ」

あくまでも先生の教え方は厳しいのだった。

30分くらいしていよいよ映画が始まる。入り口脇の売店で彼女は今度はエビアンが欲しいと言い出した。二人で1本買うことにして彼女が店員に注文。そこでまた中国語の聴き取り練習だ。

えー、今度はいくらだよ。
全神経を耳に集中し、やはり推理半分で20RMBを2枚出す。
彼女が黙って1枚をつまんで俺の目の前にかざす。

「違った?」
「当たり前じゃないの、何でエビアン1本が40RMBもするのよ」

追い打ちをかけるように店員がどっさりとお釣りをくれた。

中国語の敷居はまだまだ高い。



4-24b



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4-25.涼性熱性
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-25

チケットを渡して入り口を入る。廊下の両側にドアが並んでいて、その一つ一つがスクリーンというわけだ。手前から2番目のドアを入って中に入る。室内は比較的小じんまりした感じだ。まだ新しいのか、設備もそんなに汚くはない。

しかし、上映時間直前なのにほとんど客がいない。土曜の昼間にこんな体たらくで商売は大丈夫なのかな。指定された席を二人で探すが、どこに座っても全然問題ない気がする。ちなみに、客は全部中国人だ。当たり前だよな。観光で来て映画見る奴はいないよ。

肝心の映画はどうかというと、意外に問題なく理解できた。英語の台詞が聞き取れたわけじゃない。中国語の字幕が結構いい感じで、これを読んでいるだけで結構内容はわかってしまうのだった。漢字万歳。この調子だったら何語の映画でも大丈夫そうだ。もしかしたら洋画じゃなくて中国の映画でも大丈夫かもれない。字幕が出ればだけど。

映画が終わってトイレに行くと、そこはなかなか個性的だった。まず、照明がなんだか赤い。新築のころはオシャレだったのかもしれないが、若干薄汚れてきた今となっては場末のストリップみたいだ。しかも形が四角でなくって、三角形。便器の間隔が結構狭いので、三角形の角のところなんか三方を多数の便器に囲まれて凄いことになっている。これ、全部同時に使うことはないよなぁ。

4-25b

***

夕食は上海料理。バイキングじゃないのですっかり彼女のペースに巻き込まれてしまい、腹一杯になって店を出る。腹ごなしにぶらぶら歩いていると、彼女が売店で飲み物を買うと言い出した。

「今日は熱い食べ物をたくさん食べたから、身体を冷やす飲み物を飲んだ方がいいわ」

と言って俺に差し出したのは赤い缶飲料。日本では見ないブランドだ。別に冷たくはない。熱い冷たいというのは、漢方的な表現なんだろう。日本人には全然わからないんだけど、こういうことは中国人には常識なんだろうか。これだけ近代化されていながら、漢方が根付いているってのは何だか不思議な気がする。

渡された缶を開けて一口すする。味はまろやかな感じで悪くない。でも、腹が一杯なのであんまり飲む気になれない。

熱いの冷たいのとかいう以前に、量が問題なんだよな。
俺は彼女に聞かれないようにそっとぼやいた。

4-25c



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4-26.亥的小姐
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-26

上海に来る前に、メールで彼女が父親と和解したことを聞いた。その証なのかわからないが、彼女の家には新品のノートPCが鎮座していた。父親に買って貰ったんだそうだ。中国では親族間でも親愛の情を示すために物を買い与えたりするもんだろうか。俺は親から10万近くするものをポーンと買って貰ったことなんかないんじゃないかな。それとも、再婚した奥さんの連れ子を手なづけるための投資なんだろうか。

昨年揉めた発端の一つは、パソコンのおねだりだったんだが、こうも簡単にそれを買い与える人が現れるというのは少し複雑な心境だ。父親とかいって、本当はもう一人のパパってことだったりして。部屋に来たとか行ってたけど、ここに泊まったのかな?ベッド一つしかないのに?でも、メールではfatherと書いてあったしなぁ。

まぁそれはともかく、これで彼女も自宅からインターネットにつなげるようになった。ということは、メールでもメッセンジャーでもやり放題ってことだ。

***

帰国後は毎日メールやらメッセンジャーが飛んでくる。週のうちに何日もメッセンジャーなんで、かなりの密度になる。そうこうする打ちに、彼女が俺にニックネームを付け始めた。といってもそんなに複雑なものじゃない。干支の動物の名前で呼んでくるのだ。

じゃぁ俺は何て呼んだらいいんだよ。

彼女の干支は亥だ。イノシシって英語で何と言うんだろう。彼女に生まれ年の動物は何だと聞くと、pigという答えが返ってきた。なるほど確かに。イノシシを家畜にしたのが豚だからね。ちなみに今、辞書で調べたらイノシシはWild pig だそうで確かに間違いではない。

「だから、pigって呼んでちょうだい」

えー。

女の子をブタ呼ばわりするのは抵抗があるんだけど。

もしかして、中国では文化が違うので女の子をブタって呼んでも失礼にならないのかな。西遊記では猪八戒が出てくるしな。大切な教典を守ってくれたのがブタなんだから、中国ではブタは神聖な生き物なのかも。豚肉の料理も多いし。

いろんな考えがアタマを巡る。
俺が送った懸念を見て、彼女がすぐにメッセージを返してきた。

「何がヘンなのよ。子ぶたちゃんよ。可愛いでしょ」

あぁなるほど、“ブタ”じゃなくて“ぶた”ですか。

それならちょっと意味は違うかもしれんね。


4-26b



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4-27.豚的呼称
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-27

翌日、彼女からメールが来た。宛名がすっかり動物になっている。どこにも俺の名前が見あたらない。じゃぁ俺も、と思って返信を書き始める。

「 Hi! Pig」

と書き出すと、アタマの中でもう一人の俺がそれを日本語に訳して読み上げる。

“おい、ブタ”

いや、違うって。

やっぱり何か違和感があるぞ。
どうも喧嘩を売ってるみたいにしか思えない。
少し考えて、接頭語を付けることにした。

「Hi, sweet pig!」

“酢豚!?”

だから違うっての。
ちなみに酢豚は正確には sweet-sour pork だ。

「cute pig(キュートなぶた)」

ならどうだ?これならいいんじゃないか。でもcuteって名詞だったかな。形容詞だとcutieか。じゃぁ“cutie pig”?

“キューティーピッグ”

いやぁ、ダメダメ。
太ったキューティーハニーがアタマに浮かんでしまった。

もう途中から面白くなってしまって全然話が進まない。

“Hello again, pig!” とか書いたら回鍋肉みたいだしなぁ。
ちなみに正確にはtwice cooked pork。
そもそも料理に使うブタはpigじゃなくてporkなんだから関係ないんだけど、どうしても連想してしまうので可笑しくてしょうがない。

ひとしきり一人で楽しんだ後、最終的に “little pig”と呼ぶことにした。これならまさに「子ぶた」だ。三匹の子ぶたという童話もあるし、上等じゃないですか。

ちなみに中国では親しみを込めて目下の人間を呼ぶときに「小」の文字を付けることが多いらしい。そういう意味でも “little pig” は悪くない呼び方なのだった。

ということで一件落着。疲れたから本文は明日書くことにしよう。


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02 : 11 : 40 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
4-28.蘇州
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-28

さて、一時期の重たい雰囲気はどこへやら、すっかり楽しく会話を続ける俺たち。特にメッセンジャーはいい感じだ。

実際の会話に近い速度でやり取りできるし、分からない単語があったら辞書を引いて確認する余裕も持てる。シェイクといって相手の画面を揺らしたり、絵文字を使ったりして遊びながら二人だけのお約束ネタがだんだん増えてくると、中身がなくても会話がどんどんつながるようになってゆく。

さて、そんな調子で毎日会話をしているうちに、今度は上海市外に旅行に行こうという話になった。上海近郊には日帰りで行けるところがいくつかある。例えば蘇州なんかどうだろう。観光ガイドでは上海とセットになってることも多いし、手ごろなんじゃないか?

彼女も大賛成。上海に住んではいるものの、蘇州には行ったことがないそうだ。

ただ、話はそれだけではなかった。

俺は日帰りのつもりで話をしていたんだけれども、彼女は泊まりで行くべきだという。蘇州の往復は結構時間がかかるので、日帰りじゃ全然見切れないというのだ。

日程的には金曜の夜から行くことはできる。日曜の昼までに戻ってくれば午後の帰国便に間に合うだろう。でも、そもそも泊まりなんて大丈夫なのか?中国では、未婚の男女が一緒のホテルに泊まるのは禁止なんじゃなかったっけ?

「一体いつの時代の話をしてんのよ。今時そんなことで捕まったりしないわ」
「ほんと??」
「ほんとよ。私の友達だってみんな彼氏と旅行に行ってるわよ」

なにぃ、もうそんなに解放的になっているるのか。中国という国は思ったより早く変化を遂げているみたいだ。

「でも、それは中国人同士の話なんじゃないの?」

中国はよそ者に冷たいというイメージがあるのでまだ安心できない。

「心配だったら、私のIDを使ってホテルをとればいいわ。見た目だけだったら中国人かどうかなんてわからないわよ」

まぁ確かにそうかもしれない。いろんな意味で中国人と一緒に動けるというのは心強い。で、交通機関は何になるんだろう。と聞くと、電車だそうだ。蘇州まで2時間くらいらしい。

「マジかよ。俺、中国の電車に乗るの初めてだよ!わくわくするなぁ」
「ははは、大したことないわよ。ただ大きな箱の中に座って揺られてゆくだけ」

彼女はおどけた言い方をしてみせた。



4-28b



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4-29.上海站
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-29

次の出張では、俺は金曜の午後に早引けすることにした。夕方まで仕事してそれから移動という選択肢もあるんだけど、着いたらもう夜なので結構慌ただしい。初めての旅行で何があるかわからないので、少し余裕を持つことにした。

よく考えたら日本からの出張者が金曜午後に半休をとるなんて妙な話なんだけど、中国支社の連中は何のツッコミもなく昼過ぎに俺を解放してくれた。

キャスター付きのカバンをごろごろ転がしながら会社から1ブロックほど歩く。大通りに面したピザ屋に入ってSMSを送る。今回は旅行なのでこのままの荷物で移動なのだ。到着を待つ間、遅めの昼飯にとりかかる。

中国出張はじめた頃はこういう場面では結構緊張していたけれども、今じゃ全然気にならない。周り全部が中国人という状況にすっかり慣れてしまった。相変わらず中国語はあまり喋れないけれども、レストランなんかでの最低限の言葉は北京にいた頃覚えた言葉で十分だ。

大事なのは中国語以外喋らないこと。

拙い中国語だけで何とか注文をすませ、何とはなしに愛想を振りまいている俺に対して、年輩のウエイトレスは紙ナプキンを持ってきてくれたり、水を注いでくれたりと、こまごまと世話を焼いてくれたのだった。

腹もふくれてすっかり居心地がよくなってきたところで彼女が到着。すぐに店を出て、タクシーを拾う。行き先は上海駅だ。

***

上海駅は大きく、モダンな建物だった。しかも凄く混んでいる。切符とかどう買ったらいいかわからない俺はただ彼女の後をついてゆくしかない。といっても、彼女もよくわかっていないようで、係員を捕まえては道を聞いたりしている。真夏の強い日差しの中を行ったり来たりするうちに少しイラついてきたのか、足並みが早まる。と、急に後ろを振り向いて「スリが多いから気をつけてね」。

おぉ、スリかぁ。都会だなぁ。上海市内はたとえ夜中でも犯罪の危険をあまり感じないんだけれども、こういうところではまた別なようだった。建物の中に入って緑の窓口みたいなところで切符を買う。冷房はあるんだろうけど、なにせ人が多いので空気がむっとしている。切符を持ってきた彼女の顔が笑ってる。

「ね、蘇州までいくらだと思う?」
「いくら?」
「一人15RMB」
「安っ!」

彼女は気をつかってかなり上等な席の切符を買ったらしい。それでもこの値段。2時間も電車に揺られるのに、日本の初乗り運賃と大して変わらない。

本当に中国という国は交通が安い。


4-29b



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4-30.同舟共济
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-30

切符を買った俺たちは一旦外に出て、今度は正面の入り口から中に入る。どーんと大きな空間があり、エスカレーターが奥へと上ってゆく。いろいろ表示が出ているけれどもどれが俺たちの乗る電車かわからない。エスカレータの脇の案内所で彼女がまた道を聞く。もしかしてこれってもの凄く大きな駅なんじゃないか?

エスカレータを上ると、広い廊下だ。その両側に待合所みたいなスペースがいくつも並んでいる。その一つに俺たちも入った。でもそこはホームじゃない。なんだか日本の駅とは手順が違うみたいだ。

待合所は大広間だった。ベンチが数列あるけれども、その間にもびっしり人が並んでいる。部屋の奥の方にいくつかゲートにようなものがあり、上に案内表示が見える。どうやらあの一つ一つがホームになっているらしい。電車が到着すると、切符を持った人だけがゲートを通ってホームに降りられるという仕組みの様だった。

ベンチの間の列の後ろに俺たちも並ぶ。列をつくっているようだけれども、ちゃんと並んでいないのでどこが最後尾だかはっきりしない。彼女が前に並んだ年輩の女性に何事か話しかける、どうもこの列が俺たちの乗る列車を待つ人の列か確認しているみたいだ。

年輩の女性が答える前に横の男が振り返って答えた。彼女がまた何かを聞く。会話が続くなと思っていると、最初に声をかけた大姐が再び会話に割り込んできた。気がつくと4,5人が参加する大会議だ。お互い顔見知りでも何でもないはずなのに、えらく話が盛り上がっている。この辺の気安さは今の感覚からするとちょっと不思議。でも東京なんかでも数十年前はこうだったんだよな。

***

しばらくすると列が動き始める。見ると奥の方にあるゲートが開いて人が次々と扉に吸い込まれてゆく。やがて俺たちの番になり、ゲートを越えて扉をくぐり抜けるとその先は階段だ。それを降りるとようやくホームが見えてきた。

列車は欧州風だった。ホームの高さが低く、電車の車輪が見える。列車の編成も結構長そうだ。何両あるんだろう。しばらく歩いて自分たちの乗るべき車両を見つけ、入り口の手すりにつかまって階段を上るようにして電車の中に入る。中は人で一杯だ。2階建て車両の1階の席に降りてゆく。

周囲が皆中国人という状況には慣れていた筈なんだけど、今回はちょっと違う。何しろ人の数が異常に多い、しかも、皆膝をつきあわせるようにして座っている。そして俺の事を見ている。そりゃそうだ。俺は仕事帰りでスーツ姿なのだ。もう目立つったらありゃしない。というか、浮きまくってる。周囲の視線を一身に受けて、恥ずかしいのと怖いのとが入り混じった気持ちになる。彼女だけが頼みの綱だ。

でも、彼女はそんな俺の気持ちなどお構いなしだ。

「ここで待ってて。ちょっと隣の車両を見てくるわ」

あぁっ、やめて!一人にしないでっ!!

と言う間もなく去りゆく彼女を、俺は泣きそうな顔をして見送るしかなかった。



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4-31.観光案内
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-31

ボックスシートの片側に彼女と並んで座る。座面はやわらかく、座り心地は悪くない。やがて列車が走り出す。心なしか日本のよりも揺れが少ない。線路の幅が広いからかな。

彼女は「ただ箱の中に座って揺られてゆくだけよ」なんて言っていたけど、そんなもんじゃない。箱の中は濃ゆいのだ。何しろ中は中国人で一杯。ほとんど満席なのである。

前の席に先ほどの大姐が腰掛けている。彼女にそっと聞くと、その大姐は蘇州出身なんだそうだ。上海で働いているんだけど、今日は実家に帰るらしい。なるほど、だからいろいろ話を聞こうとしているわけだ。

女二人でずっと話をしている。声はでかい。ふと気が付くと周囲の席の客が皆こっちを見ている。席に座っていてもすることがないので皆退屈しているんだろう。大声で話す小姐と大姐はいい退屈しのぎになっているに違いなかった。

車両の通路を小汚いおじさんが大声で何かを叫びながら歩いてくる。蘇州の観光地図とか記念品なんかを売っているようだ。俺たちの席のところまで来ると、通路側に座っている彼女の鼻先に観光案内を突きつけて売り込む。

彼女は顔をしかめて煩そうに追い払ったが、気が変わったらしく、再びおじさんを呼びとめ、1冊の地図を購入した。そして地図を広げてまた大姐と話し込む。もう大変な作戦会議だ。周囲の乗客は興味深そうにそれを見つめている。俺も興味深そうに見ていると、視線に気づいた彼女が振り返ってささやいた。

「彼女すっごくいいわ。いろんなことを教えてくれるの」
「どんなこと?」
「まずホテルね。予約してたホテルよりもずっと良いのがあるみたい。だから予約をキャンセルするわ」

おいおい、キャンセルが先かよ。
紹介されたところが満室だったらどうするんだよ。

止める間もなく携帯電話をとりだして電話を始める。俺の存在に気づいた大姐が彼女に何事か話しかける。呼び出し音を聞きながら彼女が何事か答え、こっちに視線を向けて、目配せした。
“何かしゃべりなさいよ”といったジェスチャーだ。

っておい、何話せばいいんだよ。中国語だろ??

彼女は電話の相手が出たらしくそのまま通話に入ってしまう。
おいおい、ここで放置かよ!

文句を言いたかったがどうにもならない。仕方なく俺は、満面の笑みを浮かべて大姐に一言

「ニーハオ」

大姐がまた何か言うけど、わからないので曖昧な笑顔。

あーあ、
アタマの足りない人みたいだよ俺は。



4-31b


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4-32.宾馆探索
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-32

やがて列車が減速し、蘇州に到着した。俺たちも大姐も荷物をもって列車を降りる。改札を出て大姐と別れ、二人で駅前のタクシー乗り場に向かう。列に並んでタクシーに乗り込むと、彼女は地図を片手に運転手に行き先を告げる。まずは列車の大姐が紹介してくれたホテルにレッツゴー。

10分ほどしてホテルに到着する。高層ホテルなんだけど、何となく外見が寂れている。田舎の国民宿舎みたいな雰囲気だ。

何だかこれはヤバイ感じですよ。

とりあえず入り口からフロントに向かう。交渉に俺が一緒にいても仕方ないので、俺はロビーのソファにどかっと腰を下ろして彼女を待つ。

フロントで話をしていた彼女がこっちに来る。

「部屋を見てくるわ、待ってて」

おいおい、部屋を借りに来たんじゃないんだぜ。何で下見するんだよ。そう思ったが、彼女はさっと踵を返してホテルマンと一緒に通路の置くに消えていってしまった。仕方ないのでまたソファに腰を下ろす。

こういうところに一人で放置されるのは少し心細い。足を組んで椅子に深々と座り、やおら携帯電話を出してメールを読む振りをする。そうやって、全身から精一杯 “俺に話しかけるな” オーラを出しながら、彼女の帰りをひたすら待つ。

5分くらいして彼女が戻ってきた。

「駄目だわ。他に行きましょ」

そう言うとさっさと自動ドアから外に出てゆく。慌ててカバンを持って追いかける。一体どうだったんだよ。外で彼女に追いついてそう聞くと、

「すっごい埃っぽくて汚いの。とても泊まる気になれないわ」

まぁ、そんな感じはするよなぁ。

さっき言ったとおり、ビル全体が何だか寂れているのだ。あまり賑わっているようには見えない。まぁそれは俺も同意なんだけど、そうなると今晩泊まるホテルはどうするのさ。

宿無しになる不安を感じながら、ホテルの前の道路まで出てタクシーを拾う。彼女はシェラトンと運転手に告げる。何だかんだ言ってそれなりに候補は考えていたみたいだ。

改めて思うに、中国人はこういう局面に強い。トラブルの時の臨機応変な対応というか、行動力というか。ああもう駄目だ、とか、これはもう無理だろ、と思ったところからバタバタと予定をセッティングし直して帳尻を合わせるのを何度か経験したことがある。今回もそんなノリだった。

危機対応に強い中国人と一緒という事実を再認識して大船に乗った気になった俺は、余裕をかまして彼女をからかう。

「あの大姐はいい人だったけど、ホテル選びのセンスは今一つだったみたいだね」
「ううん、多分地元の人だからホテルに自分が泊まったことないのよ」

意外にも彼女は俺の冗談には乗らず、大姐をかばってみせたのだった。



4-32b


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4-33.宾馆決定
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-33

5分ほどタクシーで走ってシェラトンに到着。城壁みたいな感じになっている脇がスロープになっていて2階部分に上がるとそこがエントランスだ。

入り口を入ると八角形のホールになっていて、そこがフロントのあるロビーだった。全体的に、中国の昔のお城の様な作りになっている。木製の造作が少し古い感じはするが、それがまたいい味を出している。

例によって、彼女がまず部屋を見せろと交渉する。だから住居を借りに来たんじゃないんだってば。と思いながらも今回は俺も興味があるので彼女と一緒に部屋を見に行く。ロビーから曲がりくねった廊下を通って宿泊棟に向かう。中は迷路みたいになっている。ツインの部屋に案内されて中を見る。こりゃ結構豪華でいい感じだ。予算さえ許せば是非泊まりたいところだ。

一つ目の部屋だけでは彼女は決めようとせず、もう一つの部屋を見せろと要求する。ホテルマンが怒り出すんじゃないかと冷や冷やしたが、全く何の問題もなく次の部屋に案内される。二つ目の部屋はまたツイン。先ほどとは左右対称の構造だ。そりゃそうなるよなぁ。

彼女が中で俺の方を見る。目の輝きを見るに、彼女もこのホテルを気に入ったみたいだ。

「どうする?他にもシャングリラとかあるけど」
「シャングリラはどんな感じなの?」
「もっと近代的らしいわ。見てみる?」
「近代的なのよりもこの雰囲気の方が楽しいよ。こっちにしよう」

彼女が嬉しそうに頷き、ホテルマンに何事か言うと。うやうやしく彼が頷いた。
なんだか新婚夫婦の新居選びみたいだった。

フロントのところまで戻って手続きを始める。値段は2泊で1,700RMB。都内で赤坂プリンス辺りに泊まるのと同じくらいの値段だ。結構な値段だけどまぁ今日は特別だからいいでしょう。それに異国感と高級感を考えたら割安だ。

金を出すのは俺だから金額の承認まではするが、後の手続きは彼女の役目だ。IDカードを使ってチェックインの手続きをしてくれるはずだ。と、思って一段低い場所にあるロビーのソファに陣取ったら、彼女がすぐに戻ってきた。

「ごめんなさい、IDカード忘れてきちゃった。チェックインしてもらえる?パスポートがあればできるはずよ」

えーまじっすか?

淫らな行為とか言って公安とかに検挙されたらいやだなぁ。

不安になりながら恐る恐るホテルマンにパスポートを差し出す。
でも、全く普通に、何の問題もなくチェックインをすることができたのだった。



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4-34.蘇州初夜
2008 / 07 / 01 ( Tue )
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再びホテルマンに案内されて先ほどの部屋に向かう。部屋に入って奥の窓から外を見ると、塀の向こうが庭園の様になっている。昔の中国風の庭園だ、ホテルの一部というより、別の観光スポットなのかもしれない。地図で見るとシェラトンは蘇州の中心部にあるのだった。

振り返ると彼女がこっちを向いて笑っている。

「やっと二人になれたわ」

なんてことを言ったかと思うと抱きついてきた。そのまま体重を後ろにして一緒にベッドに倒れこもうとする。おいおいやる気かよこのタイミングで。チェックインしたばかりだよ。なんだか映画の中の1シーンみたいだ。

いよいよという時になって彼女が急に「コンドーム!」と叫んで俺を制止する。

正論だ。
しかしそれは旅行カバンの中にある。

全裸でベッドから降りてカバンのところに向かうんだが、何しろカバンは窓辺だし、窓のカーテンは開いている。窓の向こうには庭園を歩く観光客が見える。正面が小高い丘になっていて見晴台みたいな建物もある。こっちを見晴らしてるんじゃないだろうなぁ。おいおい、頼むよもう。なんでいつもこうなんだ。

などと思いながら前かがみでカーテンを閉めた俺だった。



次に時計を見たらもう8時近くになっていた。もうすっかり夜だ。というか、夕食の時間だって終わりかけじゃないだろうか。折角の第一夜なのにこのままでは何もしないまま終わってしまいそうだ。

街の中心部に行けばレストランがたくさんあるというので、そこまでタクシーで向かう。観光地なので夜は基本的に暗いんだけど、そこだけはネオンで明るかった。広場になっているようなところでタクシーを降りて通りを歩く。

レストランを探すが1軒目はもう閉店だそうだ。さらに探すと角のところのレストランがぎりぎりまだ開いているということだった。席につくなりラストオーダーだというので慌てて飲み物と食事を注文する。彼女もさすがにペースを乱されたらしく、出てきた皿の数はまぁ俺からみて順当な枚数だった。

食事を終える頃には客は俺たちだけだ。向こうの方ではもう清掃が始まっている。なんだか従業員が賄いを食べてるような雰囲気になってきた。食べると余韻もなくさっさと店を出る。腹ごなしに街を歩くとすぐに繁華街の端に出た。結構小さい街なのだ。

繁華街の端に彼女が最初に予約してたホテルがあった。二人で見物がてら中に入ってみる。うーん、便利なとこにあるし内装も悪くないけど今のホテルの方がいい感じだね。

やっぱりキャンセルして正解だったよ。



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4-35.蘇州徘徊
2008 / 07 / 01 ( Tue )
4-35

食事が意外に早く終わってしまったので、まだ時間がある。レストランの周りににぎわった市街を散歩したが、ちょっと歩いただけで街の端まで出てしまう。こりゃ駄目だということでタクシーを拾って移動。彼女が夜遊びできるようなところはないか運転手に相談する。

タクシーが止まったところはシャングリラの近く。降りると、道の両脇にスナックとかクラブが並んでいる。彼女が興味深そうに見ていたが、その1軒に入ってみようと言い出した。その店は雑居ビルの中にあるような小ぢんまりしたクラブだ。開いた扉からホステスらいい衣装を着た小姐がこちらを見ている。

えー、止めようよ、ここは俺らみたいなのが入る店じゃないよ。逃げ腰の俺に対して「あたしは気にしないから」と彼女。いや、俺が気にするんだよ。だから駄目。と断固拒否する俺。

この通りは所謂歓楽街だ。店もそれ系ばかり。彼女が飲み物を買うというのでコンビニに入ったら色とりどりのコンドームが棚を一段占拠していた。



早々にその通りを抜け出してシャングリラまで歩く。

シャングリラはモダンな高層ホテルだった。まぁ、宿泊施設としては結構いいんじゃないでしょうか。でも、味わいはないかもしれないね。高層っていっても夜景は大したことないだろうしねこの街は。

二人でいろいろ話をしながら夜の街を探検する。観光というより、修学旅行の夜の自由時間みたいなノリになってきている。一旦、シェラトンまで戻ったんだけど、まだエネルギーが有り余ってるということで、ホテルの中をくまなく探検。

ホテルの中庭は庭園のようになっている。庭園は夜なので真っ暗だが、庭園側からみるホテルはなかなか綺麗なたたずまいだ。庭園の脇からホテルの裏側に入りこみ、従業員用のスペースなども覗いてみる。

最終的にまた表に出て、ホテルの向かいにあるレストランに入った。

そろそろ深夜0時になるのでもう客はほとんどいない。でもこの店は深夜営業らしく、全体的にテンションが低いながらも営業を続けている。窓際の席に陣取った彼女はメニューを眺め始めた。

「じゃぁねぇ、まず、ラーメンとチャーハン」

まだ食うのか。
しかも「ラーメン “と” チャーハン」ってのは何だ、「ラーメン “か” チャーハン」じゃないのかよ。

いやいや、その前に “まず” って言ってたよな。おいおい。

闇に包まれた蘇州の夜はまだまだ長い


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4-36.蘇州観光
2008 / 07 / 01 ( Tue )
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翌朝、8時にホテルを出て観光開始だ。

まずは、蘇州水郷風情民俗園。
蘇州には世界遺産に指定されているスポットがいくつかあるんだけど、ここはそれとは全然関係ない。観光目的でわざわざ作られたスポットらしく、あるサイトでは「時間の無駄」とまで書かれている。

でも結構混んでいた。中国人の観光客も多いみたいだ。順路にそって奥の方まで歩いていき、そこから船にのって水路を途中まで戻る。そこからはまた歩きだ。真夏の日ざしが照り付けてとても暑い。建物の日陰が本当にありがたい。

途中の建物の中で彼女が占い師に占ってもらっている。申し込むと奥の部屋に一人づつ通されて占い師とサシで話をするらしい。俺は興味ないので外で待つ。っていうか、中国語駄目だから占い師とサシでも会話にならないしね。10分位して出てきた彼女は何やら満足そうだった。

でも改めて言うけれども、占いは蘇州の名物じゃない。

施設を出たところでアイスを買う、それを食べて涼みながら、自転車タクシーを拾って近くの虎丘を目指す。斜塔というのもがあって、これはちゃんとした観光名所だ。

ところが、斜塔は混んでいるからやめた方が良いと運転手が言う。代わりに連れて行かれたのはシルク販売の店。これも観光産業丸出しの施設だ。彼女は何も疑問を抱かずに中に入り、興味深げに服を選んでいる。こういう子供だましにひっかかるんだよなぁもう。日本でも観光地でペナント買ったり、ひどい時には木刀を買ったりする人がいたけど、それと同じノリだ。

いつになったら蘇州ならではの観光ができるんだ。

それとなく彼女を諦めさせ、何も買わずにタクシーで移動。行った先は寒山寺。弘法大師空海が修行したらしい。やれやれ、ようやく観光らしくなってきましたよ。

小一時間見た後は、西園に移動、そして留園。
いいねいいね~、3つ連続で観光名所。しかも世界遺産だよこれ。
何しろ今日の出だしが駄目駄目だったので、普通の観光をするだけで感動してしまう。こんなことで感動できるってのはある意味幸せだよな。

中にはツアー客がいてガイドが案内をしているので、後にくっついて説明を聞いて回る。でも回廊とかがあって、方向音痴の彼女は途中でどこまで見たかわからなくなった。

時刻はもう昼頃で太陽は真上から容赦なく照り付けている。朝からアイスや水を飲んで暑さを紛らわしてきたが、ここで彼女が音を上げ始めた。もう倒れそう、などと急に弱音を吐く。道に迷ったことで気力が折れてしまったみたいだった。

彼女を元気づけながら一緒に残りの順路を回る。下調べをしてこなかったので、見所とかいった先の建物がどの程度歴史的に凄いのか全然わからないんだけど、まぁやること自体は順路を巡るだけだから何の問題もない。建物や風景は美しく、説明なしでも十分楽しめる。ということで、疲れた彼女に代わって俺が先導して留園の観光を終えた。

出口で再びアイスを買う。日陰で冷たいものをとらせるとまた彼女は少し元気になってきた。熱射病気味だったのかもしれない。元気になったとしてもまだふらふらしていて本調子じゃないので、一旦ホテルに戻ることにした。



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4-37.元気回復
2008 / 07 / 01 ( Tue )
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真夏の蘇州、炎天下の観光は体力を消耗する。彼女は熱射病気味になってふらふらだ。

もうお昼だし、昼飯がてらホテルに一回退却することにした俺たち。でも、留園は観光客で一杯だ。タクシーを拾いたいんだが全然拾えない。うろうろしていると白タクの兄ちゃんが話しかけてきた。

彼女が中国語でなにやら交渉している。俺の方を振り向いて、

「ホテルまで20RMBだって、どうしよう」

白タクだけど意外に順当な金額だ。多少割高なのかもしれないけど、この暑い中さっさと帰れるなら問題ないよ。とOKして車に乗り込む。

なんだよ、タクシーよりずっと良い車じゃないか。しかもトラブルは一切なし。回り道されたり、後で高額な金額を請求されたりとか、いろいろ悪いシナリオを考えてたんだけど、ごく普通に、極めて快適にホテルに戻ることができた。

***

ホテルのロビーは2階なんだけど、そこから階段を下りると1階のレストランがある。ランチバイキングをやっているのでそこで昼食をとることにした。奥の方のテーブル席に陣取ってそれぞれ皿をもって食料を漁りにいく。観光地は中国人の比率が多いくらいだったけど、さすがにシェラトンでは西洋人の比率が高い。

彼女は夜はフードファイターと化すが、昼は普段あまり食べない。でもこの時は、異常な量を食べ続けた。食べるほどに生気を回復してゆくのがわかる。まったく単純な奴だ。俺が一通り食事を終えても、まだまだ食べたりないようだ。今はアイスクリームを食べているが、これから多分二周目のメインコースに入ろうと画策しているに違いない。

彼女ほどではないが俺も炎天下の観光でかなり体力を消耗していた。部屋でごろごろしてるからと言って自分だけ部屋に戻る。彼女はレストランに置いてけぼりだ。でも、時間無制限のバイキングで何でも食べ放題なんだから、何も問題ないだろう。彼女にとっては天国のはずだ。

***

1時間ほどベッドでうつらうつらしていると、中国用として持っている携帯電話が鳴った。彼女からのSMSだ。 「How are you doing?」 はいはい、そろそろ戻りますよ。

レストランに戻ると、すっかり元気になった彼女がまだアイスクリームを食べていた。あれからずっと食べ続けていたんだろうか。

「ずっと食べてたの?」
「うん」
「やっぱりね、さっき見た時よりもちょっと大きくなってるし」
「まさか」

口を押さえながら声を出して笑う。大分元気を取り戻したみたいだ。

じゃ、午後の観光に出発しますか。



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4-38. 不平则鸣
2008 / 07 / 01 ( Tue )
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午後といっても時刻はもうすぐ3時になる。炎天下の暑い時間帯をホテルでやり過ごし、夕方からの再参戦だ。

向かった先は拙政園。これも世界遺産だ。

庭園に行くまでは彼女の先導だが、中では方向音痴の彼女に変わって俺が先導役になる。園内地図を見て、順路を把握して順番にスポットを見て回る。正直、全然下調べをしてこなかったので見所とかどの程度その施設が凄いかってのが全然わからない。でも、普通に見てても園内は美しい眺めだし、建物のつくりなんかも全然日本のものと違って中国って感じがバリバリ漂っている。

夕方とはいってもまだまだ暑い。一通り園内を見た後、出口近くの園内売店で再び飲み物を買う。飲みながら彼女がぼやく。

「今日は予定の半分も回れなかったわ、ちょっと計画が甘かったわね」

計画性のなさは相変わらずだ。

一休みして園の外に出る。出たところの売店でまた彼女が立ち止まってる。再び飲み物を買おうとしているのだ。

「さっきのは冷たくなかったわ。冷たい飲み物が欲しい」

さすがに飲みすぎだろうと思い、俺は知らん顔して隣の店などを眺めている。

再び付き合い始めてからちょっとだけ変えたことがある。闇雲に買い物の金を払ってあげることを止めたということ。日本の常識として普通こういう状況なら払うなと思ったものは出すけれども、違和感を感じたら出さない。たった数元程度の話でもだ。

今回もそのケース。彼女はちらっと俺の方を見るが、俺は知らん振りして隣の店の商品を眺めている。諦めた彼女はついに自分の財布を出して金を払った。

拙政園からの帰り道、彼女がさっさと自転車を拾う。ホテルまで行くつもりか、別の観光スポットまで移動するのかと思ったら、何とも中途半端なところで降りて、ここからタクシーを拾うんだという。人ごみを避けるんだったら大した距離じゃないので自分で歩いたらいいだろう。意味がわからないよ。と大声で彼女に文句を言う俺。

自転車の運転手が不安そうな顔で見ているので金はとりあえず払ったけど、納得してないと再び彼女に言う。明確な反論ができない彼女は最後には侘びを入れた。

自分勝手なようでいて、理屈が通らなければ意外に簡単に折れるのだ。で、その後尾を引くかというとまったくそうでもなく、ケロっとしている。日本的な感覚からは違和感があるが、これはこれで問題ないらしい。一方俺の方も、腹が立つことがあったら我慢せずにすぐ文句を言うので鬱積するものがない。

中国では、 不平则鸣という言葉があって、これは“不満なことがあったらすぐに文句をいいなさい”、という意味なんだそうだ。

最初は抵抗があったが、やってしまえばこれは意外に快適で、悪くない習慣なのだった。



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4-39.ざりがに
2008 / 07 / 01 ( Tue )
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タクシーでホテルに戻ってまた一休み。そして元気になったところで夕食に繰り出す。行き先は昨日と同じ中心部の繁華街だ。今日の夕食は彼女の強い勧めで「ざりがに」、料理の一つとしてざりがに料理が出るのではなく、ざりがにを専門店だそうだ。

店は質素な定食屋みたいなつくりだ。素っ気無いテーブルに薄いビニールのテーブルクロスがかけられている。店内はものすごく混雑している。店員が持ってきたセットを紐解く。紙ナプキンと薄いビニールのエプロン、そして医療用みたいな薄いビニールの手袋だ。

完全装備で二人向かい合って座っている。で、これから何をするんだい?半導体でも組み立てるのかい?などと冗談を言ってると店員が皿一杯のざりがにを持ってきた。テーブルの脇にはでっかいバケツを置く。殻入れらしい。で、それぞれ取り皿を置いてスタートだ。

「見てて」

彼女が1匹を手にとる。中華でよく出てくるエビを少し大降りにしたような感じで、日本のイセエビなんかより大分小さい。それをクイっと捻って殻を器用にむしり、タレをつけると中の肉を一口で食べた。

俺も早速やってみる。結構小ぶりなんで殻をむくのが難しい、アタマとか、捻り方を間違えると食べる部分がすごく小さくなってしまう。

「慣れないと難しいかもしれないわね」

彼女が事も無げに言いながら、大きな剥き身をタレにつけて口に運ぶ。決して俺を手伝おうとはしない。

しばらくすると、手が油でぎとぎとになってくる。手袋していても、あちこちぬるぬる、ぎとぎと、落ち着かない。赤みを帯びたタレがあちこちに飛び散って、スプラッタな感じになってきた。殻入れも凄いことになっている。

日本でもカニとかは手を使って食べるけれども、もっとスマートだ。殻だってハサミとか耳掻きみたいなやつとか、道具をつかって効率的に食べられる。でもこっちの料理はもう食べるほうもぐちゃぐちゃだ。真っ赤な肉片が散らばるのを見ると、人間は他の生き物を殺して生きているんだと実感する。

店員が隣のテーブルを片付けている。薄いビニールのテーブルクロスは使い捨てみたいだ。なるほど合理的。でもなぁ、確かに美味しいけど、ここまで大掛かりなことをしてまで食べるものかなぁ。厨房でもうちょっと料理したら普通に美味しく食べられるじゃないか。文句を言う俺に彼女が事も無げに答える。

「中国の料理人は怠け者なのよ。だから、客も料理に参加しなきゃならないの」

いや、だからそこを直せよ。



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4-40.一见如故
2008 / 07 / 01 ( Tue )
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夕食を終えて店を出る。旨かったが手間のかかる料理だった。彼女の方が上手だったが、やはり効率は落ちるので、いつもの量は食べれていない。何か物足りなさそうに視線が彷徨う。別のレストランに入ろうとするのを俺が必死に止める。はしごは嫌だよ。

すると彼女は道端のパン屋を見つけて、パンを沢山買い込んだ。部屋で食べるんだそうだ。でも、タクシーがホテルの前に来た頃、不意に彼女が声を上げた。

「あ、そうだ。昨日行った店があったじゃない」

その店というのはホテルの前の深夜営業のレストランだ。ホテルの前に止めたタクシーからホテルに入らず道路を渡って店に入る。昨日と同じウエイトレスが俺たちに気づいて気安く近寄ってくる。

彼女はレストランのウエイトレスなんかを手なづけるのが上手い。これは中国人の特性というより個人的な問題なのかもしれない。注文をしながらちょこちょこ会話を始め、しばらくするとすっかり仲良くなってしまう。

今回もいつものパターンだ。昨日十分関係を作っているせいか、昔からの馴染みみたいな顔で注文をしている。ウエイトレスは凄く若い。まだ中学生か高校生くらいか、明らかに未成年でまだ少女然としている。その小姐に注文を一通り出すと、彼女はさて、とばかりに紙袋を開け、先ほど買ったパンを食べ始めた。

持ち込みじゃんか、駄目だよそういうことしちゃ。と注意するが

「いいじゃないの、注文はちゃんとしてるんだから、文句言われる筋合いじゃないわ」

と全然気にしていない。なんて傍若無人なやつなんだ。

そして料理が一通り運ばれてくる。最後に小姐がおわんを一つ持ってくる。しばらく何かを話した後でそれを受け取る彼女。

「どうしたの?」
「なんだか注文間違えてこれになっちゃったみたい」

見ると細い麺の入ったスープだ。

「断ったらいいじゃない。注文してないんでしょ」というと、
「いいわよ、あの娘が悪いわけじゃないし」

と麺を啜る。

「ちょっと伸びてない?」
「うん」

彼女は頷くが文句を言わずに食べ続ける。

優しいじゃないか。自分勝手なようでも、自分が親しくした人にはちゃんと気をつかうんだ。そういえば昨日電車で一緒だった大姐の悪口を俺が言ったときも彼女は同調せずかばっていた。

なるほどね。結構中国人もいいとこあるじゃんか、と俺はちょっと見直した。

暖かく見つめる俺の視線に気が付いて彼女が顔を上げる。
にっこり笑って、

「ね、ちょっと食べてみない?」

しまった、見るんじゃなかった。



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一见如故(yījiànrúgù):会ったその日から旧友同然。


02 : 25 : 50 | 筆談小姐4 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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