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3-41.新居訪問
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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国慶節初日。出張で宿泊していたホテルをチェックアウトした俺はタクシーに乗り、新天地に向かった。そこのスターバックスで彼女と待ち合わせだ。

旅行鞄を脇に置いて佇んでいると彼女が現れた。一緒にタクシーに乗り、彼女の新居に向かう。新天地の周辺では英語の看板も目立つのだが、しばらくタクシーで走ると目に入る物が中国語ばかりになった。

新しいけど、どこか無機質なマンションが立ち並ぶ街の一角でタクシーが止まった。目の前のビルは小綺麗だけど垢抜けない何ともビミョーな感じの建物だ。やたら金ピカなパネルを使って高級感を演出しようとしているのが少し昔のラブホテルっぽい。

エレベーターで8階に上がる。降りると今度は白一色だ。艶のあるパネルで壁が覆われた廊下が左右に延びている。SF映画の宇宙船の中みたいだ。デザイナーが相当頑張っちゃったみたいだねこれは。

二人で廊下を歩きながら、反対側から銀色の全身タイツを来た人が歩いてきたらどうしようかと密かに思った。言葉が不自由でよかった。でなければせっかく彼女が気に入ったこのマンションをネタにしてしまうところだった。

部屋の扉は白い木の扉だ。鍵を開けて彼女がノブを引くと、派手なきしみ音を立てて扉が開いた。SF的な内装と古屋敷の様な音がミスマッチだ。扉を開いた彼女が少し緊張した面もちで「入って」と言った。

中に足を踏み入れるとそこはデザイナーズマンションみたいな部屋だった。

入ってすぐのところにソファとテレビがある小さいリビングがあり、その奥にベッドが置いてある。ベッドのあるところは一段高くなっていて、その境目はアルミの細い柱が何本かで仕切られている。その奥は出窓だ。入り口の入ってすぐのところに洗面台と洗濯機が置いてある。全体に少しくたびれて、安っぽい感じがするが、おしゃれな作りだ。思ったより随分と良い

彼女は緊張した面持ちで俺の表情を見ている。

「どう?気に入った?」
「うん、凄く良い部屋じゃない」

賛辞を送りながら部屋の奥に入り、荷物を置く。川の傍だと言ってたけれど、窓から外を見るとそこは川ではなく隣のマンションだった。部屋が丸見えだ。
下を見ると向かいのマンションの1階がスーパーマーケットらしく、沢山の人が買い物に来ていた。何だか中国人の生活圏の奥深くまで入り込んだ気がする。

ここがこれから俺のもう一つの家になるのだ。


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3-42.生活雑貨
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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荷物を置き、窓の方から振り返るのを彼女が待ちかまえていた。振り返った俺に両手を広げて見せる。近づいて彼女を抱くと、強い力で抱きしめられた。それから長い長い抱擁が始まった。キスをするでもなく、ただ俺の首の脇に顔をうずめて抱擁を続ける。1分以上抱き合ったまま立っている。ようやく顔を上げた彼女は、「I missed you so much」と言って唇を突き出した。

そうなったらもう止まらない。熱いキスをしながら彼女の両まわしを引き、がっぷり四つの体制のまま土俵際まで怒濤の寄りを見せ、そのままベッドの上へ浴びせ倒しだ。倒した後はそのまま寝技にもつれ込む。互いに服を剥ぎ取りあい、裸になって掛け布団をめくって下に潜り込んだその時、彼女が「コンドーム!」と叫んだ。

正論である。

今回の旅行のために、しっかり1ダース持ってきている。しかしそれは旅行鞄の中にある。そして、旅行鞄は窓際に置かれている。

仕方なく俺は裸のまま前屈みでとことこ窓際まで歩く。窓はカーテンも引いてなく、窓の向こうはすぐ隣のマンションだ。誰かがいたら俺のマグナムが丸見えだ。急いで鞄の脇にしゃがみ、コンドームを探す。ようやく探し当てた後、やっとカーテンを閉めることを思いついた。もう、誰かが見てたら何をしてるかチョンバレだよ。

***

終わって一息ついた後、彼女が俺の耳元でつぶやいた。

「あーあ、汗でびしょびしょよ。シーツどうしよう」
「替えはないの?」
「ないわよ、昼間急に駄目になることなんてないもの」
「じゃ、買いに行こうよ」

そんなわけで、最初のイベントはお買い物になった。
支度してタクシーに乗り、陕西南路の近くへ。入ったのはインテリアショップだ。いきなりかなり生活感のある買い物だ。こういうところで女の子と一緒に買い物してると何だか新婚夫婦みたいな気分になってくる。

店員は俺たちのこと見て何とも思わないんだろうか、場違いじゃなかろうか、などといらぬ心配をする俺をよそに、彼女はあくまでも自然体だ。「どんな色のがいい?」とか聞かれて適当に答える。何だか妙に気疲れした買い物が終わり、部屋に戻った。

部屋に戻って二人でシーツを替える。
一段落して振り返った彼女の笑顔がかわいらしくてまた抱擁。

両下手ながら十分な態勢で寄り切ると、倒れこんだ真新しいシーツの上で再びグラウンドの攻防が始まる。素早くガードポジションをとった彼女が耳元で囁いた。

「バスタオル敷かなきゃ。またシーツが駄目になっちゃう」


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3-43.朝の風景
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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朝、寝ていたらドンドンとドアをノックする音が聞こえてきた。

彼女が「まずい」という表情で目を開け、大声で何事か返事をする。中国語なので何を言っているかはよくわからない。誰か来客の予定だったのか、届け物なのか。相手はまだ納得しないらしく、彼女は戸口のところまで行って何事かさらに話をしている様子。ようやく納得したらしく、戸口の外の人物は帰っていった。

安心した俺は再びまどろみに入る。彼女はそのまま起きることにしたようだった。次に目が覚めた時には、彼女は真剣な目をしてテーブルの脇でむだ毛処理をしていた。脇の下の気を毛抜きか何かで丁寧に抜いている。集中しているその雰囲気を可笑しく思いながら、知らぬ振りをしてふとんの中でまどろみ続けた。

身繕いが終わった彼女は退屈して俺を起こしに来た。「もう、いつまで寝てるつもり?」言いながら手が伸びてくる。その手をつかんで布団に引きずり込む。

***

さて、そんなこんなで時刻はもう正午すぎ。今日は何をしようかという話になる。
そうだ、プールに行こう。

今回の旅行の大きなイベントの一つは競泳だった。彼女は学生時代に遠泳をやっていたのだ。泳ぎは平泳ぎだ。俺が最近フィットネスクラブのプールで泳いでいるという話をしてから妙に盛り上がった。要はどっちが速いかだ。彼女はそうはいっても競技としてやっていた人間である、健康のために泳いでいる俺なんかとはレベルが違うだろう。メールの端々に少し見下した雰囲気を感じた俺は、競争を申し入れた。

それから俺は、日本で週何度もプールに通って練習。タイムを計ったりしてなかなか本格的だ。競争といったら負けるわけにはいかないでしょう。しかも中国に卓球以外の競技で負けるなんて。誰も頼んでもいないのに日本代表のような気分でコンディションを作っていった。最終的には彼女の方が逃げ腰になり始め「でも私は女の子だから」などと予防線を張り始めた。

そんな背景もあり、早速プールに行こうぜ、と迫る俺に逃げ腰な彼女。
言った言い訳が「だって水着ないもの」。
そんなもの買えばいいじゃんかよ。百貨店にレッツらGOだ。

ということで、早速支度をしてタクシーに乗り込んだ。
行き先は徐家汇
今回の旅で二度目のお買い物だ。


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3-44.水着売場
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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プールに行こうと誘う俺に、水着がないのと言う彼女。じゃぁ、まず水着を買いに行きましょう。ということでやってきたのが徐家汇。繁華街である。

休日の徐家汇は賑わっていた。彼女と二人で歩いていると、日本で普通にデートしているのとあまり変わりはない感じだ。違うのは、町並みが日本より少し大きいことと、どことなくうす汚い独特の雰囲気があるということ。周囲が全員中国人というのも違う。なにしろこんなところには出張族も観光客も来やしない。

デパートの地下に降りると水着売り場がある。日本だったらちょっと遠慮がちになるところだが、異国の気安さもあり、無遠慮に売り場をうろつく。彼女が予算を聞くので中庸の価格帯を答える。真剣な顔で選んでいた彼女が、二つ選んで俺に聞く。

「どっちがいいと思う?」

いやぁ、正直言うと、そんなもの着てない方がいいに決まってるじゃないか。

どの水着がいいかなんて真面目に考える気になれないよ。どうして女ってこんな馬鹿な質問するんだろう。
心で思っていても口には出せない。曖昧な笑いを浮かべてクビを傾げてみせる。日本人特有の反応と思ってるかな。でもこの笑顔は奥が深いぜ。

彼女が隣の列の水着に気をとられる。その列や予算オーバーの品が並ぶ列だ。声をかけようと思ったがせこいので止めた。結局、高いものをせびりたいのかなぁ。少し冷めた気持ちを切り替えようと少し彼女と離れて売り場をうろつく。

しばらくして戻ると、彼女がその列から候補を見つけたようだ。花柄フリルの無茶苦茶かわいい系のビキニだ。彼女がまた聞く。

「どう思う?」

だからさぁ。むしろ競泳水着の方がそそるんだってば。

どうして女はこういう馬鹿な質問するんだろうなぁ。
でも、彼女は俺の意見を聞いてはいなかった。単純に手続きとして意見を問うた後は、答えを聞くのもそこそこにレジに向かっていった。

支払いはどうするのかと思ってたら、しばらくして店員がこっちにまっすぐ歩いてきて、カードにするか現金にするかを問いかけた。

やっぱり俺かよ。



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3-45.水泳施設
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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水着を買ったあとはプールに移動だ。向かったのは上海体育館。プール前の売店でふと思いついて水中眼鏡を買う。日本から持ってくるのを忘れてた。値段は90RMB。日本で買うのとあまり変わらない。

プールの利用料は二人で50RMB。チケットを購入すると係員が何事か俺たちに指示した。彼女に手を引かれて向かいのコーナーに移動する。そこには机がおいてあって男が一人座っていた。「二人で10RMB」。言われるままに払うと、別のチケットにおごそかに押印して俺たちに渡した。見ると、健康診断終了証と書いてある。でも、何の診断もしてないじゃないか。

彼女の方を見ると、言葉を発するまでもなく同じ感想を抱いていたようだ。「いい商売よね」と一言つぶやいて振り返ると、入り口に向かった。

更衣室が分かれているので入り口で彼女と別れる。ここから先、プールに出るまでは俺一人だ。渡されたキーを持ってゲートを越え、細い廊下を歩いてゆくとロッカールームに出た。スポーツ競技の舞台裏で見られるような効率重視のロッカールームだ。日本のフィットネスクラブのそれとはノリが違う。

そして、それを使っているのは全員中国人。子供連れもいれば老人もいる。俺と年が同じくらいかもしれない奴もいるけど俺よりずっとおやじっぽい。俺も今回はカジュアルな服装なんだけど、それでも結構浮いているかもしれない。

服を抜いで水着をつけ、人の流れについて歩いてゆくとシャワールームに出た。ブースに仕切られたシャワーを浴びている人がいる。照明は薄暗く、無機質な雰囲気が漂う。ふと振り返るとシャワーブースの対面の床に、囲いも何もなく、便器が唐突に設置されていた。

さらに歩いてゆくと、足を洗う水たまりがあり、それを抜けるとプールだった。

最初のプールは一切窓のない、コンクリに囲まれた空間だった。そこに二つ小さいプールがあり、スイミングスクールらしい子供たちが練習している。周囲がコンクリなので声がよく響く。

さらに歩いてゆくと、広い場所に出た。競技用のプールを公開しているんだろう。周囲には観客席がある。大きなプールが二つあり、一つは水遊び用で女の子たちがビーチボールで遊んでいる。もう一つは競泳用らしく、みなガンガン泳いでいた。

照明は暗く、周囲は相変わらずコンクリートばかりだ。水遊びプールで遊ぶ女の子の歓声と、暗くコンクリートに囲まれた殺伐とした雰囲気が好対照だった。


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4-46.競泳勝負
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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しばらくすると彼女が現れた。フリフリの花柄ビキニ。この硬派な雰囲気の中では明らかに浮いている。やっぱり競泳用水着にしておいた方が良かったんじゃないか。でも、彼女は全く気にしていないようだ。

二人で競泳用のプールに入る。おぉっ!深い。足が着かないぞこりゃ。どうなってんだ。水中眼鏡をつけて中をのぞき込むと深さは3m、いや、5mくらいありそうだ。飛び込み競技用も兼ねてるのかもしれない。

プールに縁につかりながら移動をしてコースの中央に出る。周囲には同じようにプールの側壁にしがみつく人たちがいる。彼女を顔を見合わせ、「じゃ、早速やろうか」と持ちかける。距離は1往復。見たところ長水路だから1往復は100mだ。

二人で見合ってタイミングをはかってスタート。最初から飛ばす俺だがちょっとおっかなびっくりだ。何しろ水深が深い。途中で疲れても足が立たないから溺れてしまう。しかも長水路だから片道が長い。

それでも遮二無二泳いで、彼女には大分差をつけた。片道を終え、対岸のプールサイドに捕まって振り返ると彼女はまだはるか後方だ。遠泳だから元来ペースは遅いのかもいしれない。しばし休息をとり、彼女が近づいたところで復路のスタートをきった。

しばらく泳ぐと前方の人に追い付く。彼も平泳ぎだた俺とは全然泳ぎ方が違う。妙にメリハリの利いた足使いで。ぴょこんと横にけり出して、そこから後ろに持ってくる。平泳ぎではなくカエル泳ぎなのだが、独自の進化を遂げている雰囲気がある。

ふと下を見ると、俺の真下を潜水泳法で反対方向に泳いでいく男が見えた。
なんだか皆好き勝手に泳いでる感じだ。

勝負の結果は俺の圧勝だった。

「As I said, I lose my face」
彼女が素直に敗北を認めて笑った。いや、俺としては面目を保ててよかった。

その後は二人で一緒に往復する。彼女の後ろについて泳ぎを観察すると、さすがに結構ちゃんとした泳ぎ方だ。カエル泳ぎではなくてモダンな平泳ぎの泳法だ。ストロークが遅いのは最初思った通り、遠泳のためのスタイルと言うことなんだろう。

しかし、前を泳ぐ彼女のフリフリ水着は、改めてみてもやはり浮いている。
これは海南島に行くような水着だよ。

ま、でも、後ろから見てて足がエロかったから許す。



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3-47.国慶節祭
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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国慶節には外灘でイベントがあるらしい。
夕食の後時間つぶしに覗いてみようかという話になった。近くまでタクシーで行き、あとは歩きだ。

外灘に着くとイベントが丁度終了したところだった。丸ごと歩行者天国になった広い道路にはごみがたくさん散らばっている。ふと建物を見上げると横断幕が多数かかっている。抗日なんたらという文字を見つけてぎょっとした。こんなナショナリズムの高い場所で日本人がうろうろして大丈夫かな。

彼女を手をつないでぶらぶら歩く。細長いスティック状の風船が配られていたらしい。学生の集団がそれを見て盛り上がっていた。風船を刀に見立ててチャンバラをしている。

一人の男が追い回されてもの凄い勢いで走っていった。いい大人が全力疾走だ。と、攻守が変わり今度は長髪の女の子が狙われた。全力で逃げるが男の足にはかなわない。ほどなく捕まり、思いっきり風船で殴られた。ボコッと物凄い音が響く。あーあ、もう手加減なしだよ。

後で聞いたけど、これって国慶節の風物詩なんだそうだ。
俺的には面白かったが、彼女にとってはいまいちだったようだ。何しろイベントは全部終わっているのだ。帰ろうと言い出したのでタクシーを捜したが、空車が見つからない。皆一斉に帰ろうとしているので取り合いなのだ。道端でタクシーを捜す人が鈴なりになっている。

と、遠くにバスが走っているのが目に入った。そうだ、バスに乗ろう。
バス停がいくつか並んでいたので、彼女が小走りに確認して回る。珍しく今日はスカート姿だ。ミニスカートの下からのぞく生足が眩しい。一緒に歩いているよりも距離を置いて見る方が幸せな気分になる面もある。

俺の視線に気づいた風もなく、彼女が戻ってきた。自分の知っている路線があったようだ。これに乗れば学校の方まで行けるはず。と言う。なるほど。じゃぁそれに取りあえずのってみようか。ここを離れればタクシーも捕まるだろう。

バスは一人2RMB。30円だよ。本当に交通機関が安いよなこの国は。バスにしばらく乗り、途中で降りてタクシーを拾った。

タクシーの中で彼女の肩に手を回すと首を傾けて俺によりかかる。それを迎えるように身体を捻り、スカートから覗く生足に手を這わせる。耳元で囁くように会話しているとだんだん膝がゆるんでくるのがわかる。

タクシーを降りて部屋に入るとソファに座ってまた続き。
こうしてゆっくりと時間を使えるのは一緒に住んでいるからこその特権だ。



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4-48.老婆進入
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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翌朝は午前中のうちに起きた。二人とも身支度をして、さて、どこに出かけようかなんて話をしていたら、昨日と同様、扉をノックする音が。一体何なんだろう毎朝毎朝。

丁度彼女はトイレに入っているので返事ができない。まぁ放っておいたら帰るだろうと思っていたら、ガチャガチャと音がして扉が開き、人が入ってきた。

まじかよ。

入ってきたのは初老の婦人だった。部屋の中に俺がいるのを見て驚いたように立ち尽くしている。誰だ?もしかして彼女のお母さんか?などとめまぐるしくアタマが回る。気まづい沈黙の後に、彼女がトイレから出てきた。彼女が声をかけると老婦人の緊張がほぐれ、さらに何事かを話をして笑い声があがった。彼女が俺の方をちらっと見て、さらに老婦人に何かを話す。どうやら俺の紹介をしたらしい。老婦人が「ニーハオ」というので俺も会釈で答えた。

彼女の説明によると、この老婦人はハウスキーパーの人らしい。毎日ここに通ってきて、部屋の掃除と洗濯をしてくれるのだそうだ。独自で頼んだのか、マンションの仕組みとしてそういうものがあるのかはわからない。贅沢だとは思ったが、俺を泊めるだけの清潔さを維持するためには必要だというのが彼女の説明だった。

しかし鍵を持っているから勝手に入ってきちゃうんだ。昨日、ノックの音で目が覚めなかったら現場に踏み込まれてたってわけだ。危ない危ない。

老婦人が作業をしている間、何とはなしに彼女が話しかけ、世話話で盛り上がっている様子だ。凄く気安い雰囲気になっている。老婦人が彼女に話しかける声のトーンは、親が子供に声をかけるような感じだ。また俺の話になったらしく、俺のことをみて微笑んでいる。一体どういう関係だと紹介したんだろう。

中国では未婚の男女が同じ部屋に泊まるということは禁止だったはずだ。となるとこの状況はまずいんじゃないだろうか。しかも相手が外国人なのに。ナショナリズムの高まるこの時期にこんなところを見つかったらたちまち通報されて、強制国外退去とかになるんじゃないか。と思って内心ビクビクしていたけど、老婦人の暖かい雰囲気を見る限り。そのような心配はなさそうだった。

老婦人が作業を始める。最初は部屋の奥に入って洗濯物の処理だ。彼女がふとベッドの方を見て慌てた表情になる。さっとベッド脇に駆け寄って、ティッシュで使用済みのアレを包んでゴミ箱に捨てた。

ま、そうだよな。さすがにそれはまずいだろ。


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3-49.浦東行楽
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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その頃、上海には移動遊園地なるものがやってきていた。浦東の広場にアトラクションを並べて楽しませるというものだ。大きなジェットコースターはないものの、その場でぐるぐる回ったり高いところから落ちてみたりなんてものがいくつか置かれている。サーカスみたいにあちこち移動しながら興業しているらしい。

アベックで楽しむなら遊園地は基本でしょう。とは全然思わないんだが、彼女が行きたがるのでしょうがないからついて行った。俺はちなみに絶叫マシンは全然駄目だ。一緒に乗ろうとせがむ彼女に首を振り、一人で乗っておいでと告げる。ここで見てるからさ。

安全バーで椅子に固定された人々を乗せたアトラクションがゆっくりと回転を始め、さらに振り子の様に大きく揺れるのを下から眺める。叫ぶ彼女を下からずっと見ている。ふと下を見るとおじさんが一人、座り込んでいる。先の回のに乗って、気分が悪くなったらしい。後先のことを考えずに乗るからこうなるんだよ。でも帰ったら親戚や友達に自慢話するんだろうな。

彼女が満足したところで場所を移動し、隣のショッピングモールに入る。

最初のインテリアショップで見たのはおしゃれなキッチンセット。そういえば手料理を作ってくれるとかいう話をしてたけどどうなったっけ?隣のコーナーはソファが並んでいる。彼女はその一つが気に入ったようでしばらく座って動かなかった。

バストイレタリーのコーナーでは日本の商品がそのまま並んでいる。パッケージも日本のそのままだ。便利グッズはパッケージに図柄がでかでかと出ているので、そのままでも通じるってことなのかな。彼女はここで小さい鏡を買った。

次は本屋だ。結構大きな本屋で中が2フロアになっている。外国語のコーナーは英語の本ばかりで日本語の本は面積が明らかに小さい。

夕飯もそのモール。いろんな料理が食べれるバイキング形式の店。先払いで一人200RMBだ。川ごしに外灘の夜景が綺麗な窓辺に場所を陣取り、それぞれ勝手に食べ物をとって食べる。彼女の巨食癖は相変わらずだが、バイキング形式は結構いいかもしれない。それぞれのペースで食べれるし、料金の心配もいらない。

アイスの前は長蛇の列で彼女は並ぶのを諦めていたが、先に食事を終えた俺は暇つぶしに並んでアイスをせしめることに成功した。アイス山盛りの皿を盛ってテーブルに戻ると彼女が歓声を上げた。

それまで見た中で一番嬉しそうな笑顔だった。



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3-50.用便問題
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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彼女の家のトイレはシャワーブースと一体になっている。戸を開けると便器があり、その横がシャワーブースという作りだ。

シャワーブースは透明のガラスで覆われた半畳ほどのスペースだ。一見綺麗だけど結構ボロい。だいたいシャワーの出方がいい加減だ。パッキンが古くなってるのかもしれないけど、シャワーヘッドの根本のところからも1,2本水がほとばしり出てくる。

シャワーブースを使うと隣のトイレの床まで水浸しになる。シャワーブースの扉がちゃんと閉まらないし、他からも漏れているみたいだ。トイレの床には小さい雑巾が置いてあって、足でさっと床を拭いて水気をとることになっている。空気がかなり乾燥しているのか、2,3時間経つとシャワーブースの床も含めて綺麗に乾いてしまうのだった。

トイレと部屋との間の扉は常時開け放しになっている。意外に湿気や臭いは感じないし、部屋は広く感じるのは良いんだけど、便器が丸見えだ。扉を閉めても真ん中の部分が縦に床の近くまですりガラスになっているので、中で便座に座っているのがぼんやりと見える。

俺的には小はまだいいが、大の時はどうも居心地がよくなかった。何しろ便座に座っているのが見えるのだ。しかもよく見ると扉の立て付けが悪くて完全に閉まらない。風が吹いたら開いてしまうような、そんな不安定な状況の中、トイレで踏ん張るのはどうも落ち着かない。

しかも、中国のトイレは詰まりやすい。俺はホテルで1回やった前科がある。しかしここで詰まったら彼女に助けを求めるしかないのだ。1泊の旅行なら我慢したらいいが、何日も泊まるとなると結構大変だ。まさに“不便”なのである。

毎日小分けにして出すか、それともまとめて日本に持って帰るか。
俺は後者を選択したが、途中でギブアップせざるを得なくなった。
何しろ、彼女は大食いなのだ。俺まで毎日大変な量を食べている、入る量が多ければ出る量も多い。お持ち帰りできるサイズではなかった。

しかも、こうなると考えられる最悪の状況だ。どんだけの量が出るかわかったもんじゃない。80%くらいの確率で詰まるに違いない。

悲壮感に一杯になりながらトイレに旅立つ俺。帰って来る頃にはトイレが詰まって恥をかくんだ。きっと百年の恋も冷めるだろう。あぁ、2回に分けて脱糞する練習をしておけばよかった。

でも、トイレは詰まらなかった。

俺は紙でウンを拭きながら、神から授かった運に感謝した



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3-51.先進と未開
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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ホテルに泊まらず彼女の家に泊まってみて不便だったことの一つにインターネットがある。ホテルなら部屋にLANが来ていることもあるし、それがなくてもビジネスセンターに行けばPCを使うことができる。でも、家に泊まっているとネット接続ができないのでメールの確認ができないのだった。

翌朝彼女に相談すると、無線LANが使える店があるから行こうという。連れて行かれたのは外灘の近くのピザ屋さん。外にWiFiと書かれたポスターが貼られている。中でPCを開くと簡単に無線LANがつながった。しかも結構早い。これは快適じゃないですか。

ピザを食べながらメールをチェックしていると中々快適。でも、毎回ここに来るのは不便だよなぁ。ということで、再び彼女に相談してインターネットを引いてもらうことにした。そのマンションで提供しているものだというから、ビルまでは太い回線が来ているのかもしれない。部屋の中にはモデムを置き、ADSLみたいな感じで使用するタイプだ。費用は年契約で2,000RMB。日本より少し安いけれどもそんなに劇的な安さではない。こういうモダンなものは価格差が少ないようだ。

もう一つ、俺のこちらでの生活を整えたいことがあった。靴だ。

俺はこちらには基本的には出張で来ている。ということは服装は基本スーツということになる。靴は革靴だ。週末は彼女の家に泊まるとして、服は持ってこれるけど靴はちょっとかさばるので荷物に入れたくない。でも、カジュアルな服装に黒い革靴というのちょっといただけない。ということでカジュアルな靴を買おうということになった。

浦東のショッピングセンターに行き、ナイキの店で靴を買う。日本で買うのとあまり変わらない値段だよ。っつーか、日本で買って持ってきたらよかったんだ。でも、彼女は嬉しそうだ。一緒に買い物に行き、試着したりなんかしながら選ぶのが楽しいらしい。

靴を買った後で一緒に服も買おうと言い出した。

「えー、いいよ。服は日本から持ってくるから」
「一緒のデザインの服を買って、二人で歩きたいわ」
「それってペアルックってこと?今時そんなことやっている人なんかいないだろ」
「そんなことないわ、今流行よ」

まじかよ、本当に昭和なんだなこの国は。

しかし、俺的には無理だったのでこの提案は断った。以後もチャンスがあれば彼女は俺を店に引き込んで服を選ばせようと試みたが、断固として逃げ続けた俺だった。


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3-52.収入と支出
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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その日の夕食は鉄板焼きだ。昨日に引き続き定額制の食べ放題だ。というか、俺たちの場合は“食べ膨大”。実際、この日の彼女は絶好調だった。

目の前にシェフが立っていて注文するものを次々と焼いてくれるんだけど、その量が半端じゃない。目の前で焼いているシェフはどんな気持ちなんだろうなぁ。注文を作るだけじゃなく、それを胃袋に流し込む痩身の女性をライブで見ているのだ。俺がもし中国語を喋れたら、彼とゆっくり語り合ってみたい。一晩呑み明かすことになるのは間違いないだろう。

すっかり腹一杯になった俺は暇なので食べ続ける彼女をいじる。

「なぁ、思うんだけど、君は店に入った時より少し大きくなったよね」
「そんなわけないでしょ」

彼女は笑い出す。

「だってさぁ、今日食べた食物は、少なく見積もっても君のアタマの大きさ以上の体積はあるよ」
「そんなわけないわよ」

爆笑しながら、彼女はまた一つ皿を片づけ、次の皿にとりかかる。俺たちの前には食べ終えた皿が積み上がっている。何故か店員は片づけに来てくれなくなっていた。

隣の客が入れ替わり、西洋人の男二人組が来た。

最初の注文を出したところで、男の一人が、俺たちの前に積み上がった皿に気がつき、ひゅ~と口笛を鳴らしてもう一人の男に何事かささやいた。二人で面白そうな顔をしてこっちを見ている。その視線に気がついた俺が振り向くと。こっち側に座った男が親指を立てて「Good job!」と言った。

俺じゃないんだよ食べたのは。

説明しようと思ったけど、面倒なので止めた。横ではまた一皿片づけた彼女が独り言だ。

「きっと私、この店出入り禁止になるわ」

そりゃそうだ。いくら食い放題と言ってもこれはあんまりだもの。

***

そしてようやく夕食を終えてタクシーで帰宅。
家に帰って体重計に乗った彼女は自分の体重の増加に驚きの声を上げた。

「食べすぎなんだよ。4~5kgは増えてるんじゃないか?」
「大丈夫、朝になったら戻ってるわ」
「いや、そんなわけないだろう」
「大丈夫よ。だって、運動するもの」

ベタなことを言いながら彼女は俺の首に手を回してきた。


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3-53.突発事態
2008 / 04 / 15 ( Tue )
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夕食を終えて帰った深夜。体重計に乗る彼女をからかった流れから彼女が俺の首に手を回してきた。そのままもつれあってベッドに倒れこむ。忙しく服を脱ぎ、手を伸ばして部屋の電気を消す。彼女のところに戻ると、暖かい体が俺を包んだ。

「あたしたち、こればっかりね。もう何回目?」
「知らない。でも6時間おきくらいにしてる気がする」
「し過ぎかしら?」
「いいんじゃない?規則正しいのは健康にいいんだよ」
「ははは」

とはいうものの、正直きつい。それなりに消耗するものもあるし、新鮮味というのがだんだんなくなってくる。いきおい、時間も長くなる。最後は身体を離して彼女のあられもない姿を見据える。華奢な身体に形の良い胸がついて、何だか成人物のアニメみたいだ。俺みたいに新鮮味を失うこともなく、完全に没頭してる。むしろより深いかもしれない。女の子はうらやましいもんだ。

終ってすぐにトイレに立った。トイレの中でゴムをはずしたが何となく違和感がある。よく見ると色が付いている気がする。ティッシュで拭うと赤い色。

「おい、血が出てるぞ」

思わず大声で叫んでベッドで寝始めていた彼女を起こす。彼女は不機嫌そうに俺を見て、言われるままにトイレに入った。しばらくして驚いたような声が聞こえてきた。

「Oh, Bloody! 」(あ~、血が出てるぅ!)

だからそう言ったんだって。

彼女はしばらくしてトイレから出てきた。

「You started the period?」 (生理が始まったの?)
「No, maybe... having sex too much」 (違う、多分ヤリ過ぎよ)

そして慌しく生理用品を取り出して再びトイレに篭る。

手当てを終えると、彼女はどさっとソファに腰を下ろした。
所在なげに立っている俺をちらっと見て、話しはじめる。

「あたし、前の彼と別れてから1年半の間、Hはしてなかったの。それがあなたと会っていきなりこんなにするようになったから、身体がついていかなかったんだわ」

その状況と彼女の口調から、嘘は言っていないように思われた。KTVに勤めていて、そうは言っても何度か客のところに行くこともあったろうと覚悟していた俺にとっては、嬉しいニュースだ。

内心にんまりする俺をよそに、彼女は話を続ける。

「Anyway, I didn’t know you’re so crazy about sex」
(全く、あなたがこんなに絶倫だとは知らなかったわ)

俺のせいかよ。


3-53b



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3-54.純愛路線
2008 / 04 / 15 ( Tue )
3-54

やり過ぎで血が出てしまった彼女。
ナチュラルに俺のせいにしてくるので、思わず絶句した。でも事実はそうじゃない。我に返った俺は懸命に反論だ。

「俺だってこんなに回数したのは生まれて初めてだよ」
「ほんとう?」
「ほんとうだよ、君が相手だからこうなっちゃったんだ」

相手もあるが、ずうっと引っ張り続けてようやく付き合い始めたというところで歯止めが効かなくなったことの方が大きい気もする。でもそれは敢えて言わなかった。そして、彼女は俺の言葉だけを受け止めて、やさしい目をして微笑んだ。
いい雰囲気になったのに乗じて、気になっていた彼女の過去に話題を振る。

「前の彼はどんな人だったの?」
「大学の先輩」
「ふーん」

何だか不思議な気がした。中国の大学生活って一体どんなだろう。スノボとテニスと合コンでってな訳じゃないんだよなきっと。

「それまでの私はまるで男みたいだったの。全然恋愛にも興味なかったし」
「でも、その人は違ったんだ」
「うん」
「初めての人?」
「そう。。実際、私はその人と結婚するんだって思ってたもの」

付き合う前に彼女が何度か口にした「トラディショナル・ウェイ」という言葉が思い浮かんだ。この部分は嘘ではなく本当の話だったみたいだ。実際、古き中国の道徳を感じる。日本も昔はこうだったのかな。貞操観念ってやつですか。

しかし、彼女は一年半前にその彼氏と別れたのだ。原因は胸の整形。彼に気に入られようと思ってしたその施術が受け入れられず、処女を捧げた相手から捨てられる羽目になったということになる。そう考えるとかなりシリアスな話だ。

しばらくの沈黙の後、彼女が俺の方を見上げた。

「3年前に出会えたらよかったね」
「大学生の君と日本人の俺がどうやって出会うんだよ」
「そうだけど。もし逢えてたら、あたしの処女を貰えたのよ」

彼女の目が優しい光を帯びて笑っている。

いやぁ、嬉しいんだけど、ちょっと重いですそれは。


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3-55.不満鬱積
2008 / 04 / 15 ( Tue )
3-55

翌日もちょっとした事件があった。

原因は英語力だ。俺の英語は相変わらずの糞レベル。最初の頃よりは上達はしたが、それ以上に彼女との関係が深まった。となると、もっといろんな話をしたくなる。最初に怒ったのは俺の方だった。ネタを仕込んで話を進めているのに途中で話題を変えてしまう。それが何度か続くのだ。思わず文句を言う。

「何で話題を変えるんだよ」
「いいじゃないの、世間話なんだからどんな話をしようが勝手でしょ」

その時はそれで終ったが、家に帰ってから、今度は彼女が不満を爆発させた。
何かの会話で俺がとんちんかんな答えをしたらしい。

「なんであなたっていつもそうなのよ!ちゃんと聞いてるの?」
「聞いてるよ!一体何を言ったんだよ」

彼女は早口でまくし立てる。明らかに違う言い方だ。

「さっきと違うだろ。同じ文章を言えよ」

文句を言う俺に挑むような目で睨みながら彼女がさっきと同じ文章を言う。”pleasure”という単語が聞き取れたので、「それはいいことじゃないか」と返答すると、「違うでしょ!もうっ!」と怒る。こっちは何のことだかわからない。

「何がいけないんだよ。じゃぁ言ったことを紙にかけよ」

こっちも怒っているので口調が高圧的だ。
彼女が机の上のメモを引き寄せて文章を紙に書いた。

“I’ve lived under big pressure”

と書かれたメモを見てあっと思った。Pleasure と Pressure じゃ全然違う。

俺の狼狽を見て彼女が「だから言ったじゃないの!」と大げさにため息をつく。
しまった。まさに、致命的な失敗だ。

発音が中国訛りで本来の発音でなかった気もするし、またこの話題かよとげんなりする気持ちもあるが、この流れでは言い訳できない。忸怩たる思いで詫びを入れた。

彼女の怒りが収まるのを見て、俺も気を落ち着けて言葉を続ける。

「俺も悪かったけど、実際、俺の英語力はこの程度なんだ。君もわかったでしょ。そんなに急に進歩しないよ」

彼女は黙って聞いている。

「俺はちゃんと君と会話したい。それにはまだ君の助けが必要なんだ」

謙虚な気持ちで請う俺に彼女の心も動いたようだった。

「私も悪かったわ。短気を起こして」

喧嘩の後の仲直り。どちらともなく手を伸ばし、抱擁する。接吻を繰り返すうちに思わず手が彼女の内股に入る。彼女の声を聞いてもう止められず、抱き上げてベッドに移動だ。間違いなく流れはある方向に向いているんだけど、気がかりな点もある。

「大丈夫かな、また血が出ちゃうんじゃ」
「いいじゃないの。あなたは明日にはもう帰っちゃうんだもの」

彼女は目をつぶったまま、甘い声でこう囁いた。

中国人って絶対にラテン系だと思う。


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3-56.連休終了
2008 / 04 / 15 ( Tue )
3-56

ちゃんと付き合い始めてから初めて喧嘩をした翌朝は、日本に帰る日だ。

午後便なので午前中ゆっくりと寝てから支度を始める。身支度の途中でハウスキーパーの老婦人がやってきた。ボサボサの髪のまま微笑んで肩をすくめながら「ニーハオ」と挨拶すると、老婦人も優しい目で「ニーハオ」と言ってくれた。

老婦人が仕事を始めるのを見ながら身支度を始める。先に支度を終えた彼女は老婦人と話をしている。俺はというと、出張の服装に戻っていた。ガーメントバッグを持ってないのでカジュアルな服はかばんにつめ、スーツ姿に戻って帰るわけだ。折角なので髪にも油をつけ、髭もそって仕事モードの装いに戻る。

「準備できたよ」と声をかけると話に夢中になっていた二人が振り返った。どちらからともなく驚嘆の声が上がる。「すごい。昨日までとは見違えるようだわ」と彼女が言う。そりゃそうだろ。

老婦人も中国語で何事か俺に向かって語りかけた。中国語なので意味がわからないが多分同じことを言っているのだろう。まるで孫の晴れ姿を見る祖母のような暖かい眼差で俺のことを見つめる。

その視線から伝わってくる愛情を嬉しく思う。
と同時に気恥ずかしくもなり、照れ臭くなって頭を掻いて見せた。

老婦人に見送られて二人で家を出る。以前にも行ったピザ屋でメールをチェックしながら昼食をとる。休み中も何も仕事には変化はないようだ。そりゃそうだよな。俺ごときが一人いなかったからって会社は回るもんだ。

「身体は大丈夫?」と聞くと、
「血が止まらないわ」と彼女。「きっと擦り傷みたいになってるのよ」

“scrubbed”という単語が妙に生々しく聞こえた。
沈黙した俺に彼女は別の話題を投げかける。

「次はいつ来れる?」

そういえば次の出張の予定を作っていなかったなぁ。出社したらメールを出そうかな、などと思いを巡らせて、また返事をするのが遅れた。それが彼女に誤解を生んだ。昨晩の喧嘩で俺が付き合いを続けるのを躊躇したと思ったらしい。急に俺の方を見つめたその大きな目が見る見るうちに涙であふれる。俺は慌ててフォローを入れた。

「違うんだ。仕事のことを考えててさ。もちろん近いうちにまた来るよ」
「そう。。」

彼女は安心した様子で笑顔に戻った。


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3-57.確かな変化
2008 / 04 / 15 ( Tue )
3-57

日本に帰った翌日から毎日メールが届く。彼女は英語学校が終わった後、学校のPCでインターネットにアクセスして俺にメールを送ってよこすのだ。

”家に帰ると何かが欠けた気がする。ベッドに横になってあの日のことを思い出すわ。あなたが横に寝ていて優しく私のことを見てくれるの”

いない人の姿が見えるのは幻覚だ。

でも、この場合はそうではなくて詩的表現。もう相変わらずこの調子なのだ。

ただこれには理由がある。彼女はそれまでルームメートがいたのに、引っ越して一人暮らしになった。そこにすぐ俺が訪問して1週間弱一緒に居たのだ。いなくなって孤独感を感じるのは当たり前だが、彼女はその理由を俺への恋心と解釈した訳だ。

彼女のクラスメートには、彼氏がいることが知れ渡っているらしい。授業が終わるといそいそとPCに駆けつけ、せっせをメールを打っているのでモロバレなんだそうだ。そんなことも嬉しそうにメールで打ってくる。

考えてみたら、感情をこういうふうにちゃんと文章にするってあまりない。遠距離だからからか、それとも中国人の特性か。

やりとりしているうちに、彼女の英語のアラもわかってきた。彼女はLonelyをlongly と間違って覚えていた。 “お母さんと久しく会えないので私は長くなるの”とか書いてくるのだ。一体、どこが伸びんだよ。でも、ある日これはロンリーの間違いじゃないかと気がついて、返信の中で敢えて“Lonely”という言葉を使ってやんわりとスペルの間違いを指摘したら、1ヶ月くらいして気づいた様だった。

彼女は映画が好きで、それで英語を覚えた口だ。今でも家のテレビで見るのはHBOだけだ。耳で覚えた英語なので、綴りの間違いは以外に多いみたいだった。

彼女は通訳を目指して英語を勉強しているわけだが、依然として相当な訛りがあり、単語の間違いもある。でもそれをまったく気にしていない。プロフェッショナルな通訳を目指しているにも関わらずだ。そう考えると日本人はなんて弱気なんだと思う。

まぁとにかく、こんな調子で毎日メールを交わす。それだけじゃない。夕方から夜にかけてはSMSでおしゃべりだ。そして週末にはこちらから国際電話。もうかなり濃いコミュニケーションだ。そんなことを続けてるうちに、ほどなく次の出張がやってきた。

今回は日程がちょっと違う。これまでは出張が終わってから会いに行くのだが、今回は週末から先に上海入りし、彼女と会ってから週明けの仕事に向かうというパターンだ。金曜日に日本で仕事を追え、翌土曜日の朝便で上海に旅立った俺だった。


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3-58.磁浮列車
2008 / 04 / 15 ( Tue )
3-58

出発直前、空港から彼女にSMSを送る。着いたら連絡するから待ち合わせ場所を決めようという話に。現地に着けば昔買った中国の携帯で直接電話やSMSができる。本当に電話というのは便利なものだ。

飛行機は少し遅れて飛んで、浦東空港に着陸した。キャスター付バッグをごろごろ転がしながら空港の通路を急いで入国審査の列に並ぶ。何度来てもここは長い列だ。ま、じっくり行くしかない。

待ち時間を利用して中国用の携帯を取り出してスイッチを入れる。早速彼女に到着報告のSMSを打つが、送信ができない。おかしいな、回線が混んでいるのかな。とりあえずまた後で送信してみることにしよう。

入国審査を越えて、通関も越え、出口に出る。今日は土曜日で彼女は学校に行っているはずだ。急ぐことはないとリニアモーターカーに乗ってみることにした。

リニアモーターカーは浦東空港から龙阳路を結んでいる。リニア自体は早いんだけど、龙阳路から市街までが結構時間がかかるので仕事で来るときは敬遠していたのだ。

切符売り場で券を買い、出発間際の列車に乗り込む。進行方向に向いた席は一杯だ。仕方ないので後ろ向きのシートの空いたところに輿を降ろす。周囲は欧米人ばっかりだ。

ほどなく列車が発車。ぐんぐん加速してゆく。車両の橋にデジタルのスピードメーターがあって速度がぐんぐん上がってゆくのが見える。200kmを越えても凄い勢いで加速してゆくのはたいしたもんだよな。しかも振動があまりない。これと比較したら新幹線はもう必死だよ。

ほどなくカーブに差し掛かる。はっきり分かるほどの横Gを感じながら、列車はまだ加速を続ける。430km近くの最高速まで達するとすぐに減速を始める。そして駅に到着。所用時間は7分半だ。早い。満足そうな欧米観光客に混じって列車を降りる。ま、観光用のアトラクションとしてはイケてるよな。

駅で再びSMS送信を試みる。しかし通じない。直接電話しようとしたがやはり駄目。何か通信のトラブルでも起きているのかな。でも周囲を見る限りそんな雰囲気は感じない。皆普通だし、携帯で話をしている人もいる。

これは困った。待ち合わせの相談ができないじゃないか。どうやって彼女に会ったらいいんだ?

会えなかったら俺は今晩泊まるところもないぞ!?


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3-59.携帯不調
2008 / 04 / 15 ( Tue )
3-59

出張で上海した俺。上海に着いてみたら携帯電話が不通で連絡がとれない。彼女と落ち合えなかったら俺は今晩宿無しだ。さて、どうしたものか。

しばし駅のコンコースで考えを巡らせる。路線図を見ていて名案を思いついた。そうだ、インターネットだ。PCでネットに接続できれば自分のメールアドレスから彼女にSMSを送ることができる。以前行った外灘傍のピザ屋なら無線LANが使える。

早速地下鉄の切符を買ってピザ屋に向かう。店内でネットにつないてPCから彼女にSOS。冬の短い陽が陰り始めた頃、ようやく彼女と落ち合うことができた。

携帯電話はプリペイド式だったのだが、その金額を使い切ってしまったために不通になっていたようだった。プリペイド携帯のチャージ用のカードは道ばたの露天みたいなところで売っている。彼女がカードを購入し、携帯電話への設定をしてくれた。

***

その日は外灘中心の地下で食事。彼女はフードファイター顔負けの大食いなんだけれども、今日はチーズこってりの大皿(4人前だ多分)をあろうことか2枚も頼んでしまっって撃沈気味だ。俺も頑張ってが今回ばかりは敗北を認めざるを得ない。

同じビルのCJWというバーで敗戦の苦味を噛みしめながら二人で酒を呑む。
気分を変えようと俺から話題を振った。

「しかし今日は焦ったよ。言葉が通じないから何かあった時に凄く不安になるんだ」
「大丈夫でしょ。あなた中国語喋れたじゃない」

そういえば最初の頃、北京で中国語を少し喋ってたなんて話をしたっけ。でも、彼女と会うようになってから中国語はあまり使わなくなった。支社でもそうなのだが、英語が通じると中国語は喋らなくなる。ほとんど“マイダン”と“給我発票”くらいだ。そのことを彼女に言うと、「じゃ、これから練習しなきゃね」と言ってにやっと笑った。

2杯づつ酒を呑んでからバーを出て階下に降りる。薄暗いビルの前で客待ちをしているタクシーの1台を選んで乗り込む。俺が先に乗って、追って彼女が乗り込む。ぴったり俺の脇にくっついたまま、何も喋らない。車内がしばし沈黙に包まれる。運転手がいぶかしそうな目でバックミラー越しにこちらを見る。彼女が俺をみてひそひそ声で言った。

「ほら、行き先を言いなさいよ!」
「え~」

いきなりの実践練習にどん引きしたが、喋らないと話が進まない。運転手が苛立たしげに何事かつぶやく。俺は仕方なく、大声で行き先を言った。一瞬の沈黙があり、運転手は無言で車をスタートさせた。

「わかったのかな?」 彼女の耳に口を寄せてつぶやく。
「大丈夫、通じてるわよ。ひどい訛りだったけど」 とくすくすと笑う彼女。

結局、笑いものかよ。



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3-60.PC環境
2008 / 04 / 15 ( Tue )
3-60

部屋に返ったら一仕事が待っていた。前回の滞在でインターネット接続が非常に不便だったのを見て、彼女がインターネット回線を申し込んでおいてくれたのだ。マンションで提供しているやつで、ADSLらしい。モデムまでは来ていて設定されているのだが、そこから先が進んでいない。なにしろ、彼女はパソコンを持っていないのだ。

コードをつなげばつながるはずだという彼女の説明を受けて、カバンからPCを取り出す。モデムにLANコードをつなぎ、スイッチを入れた。

「つながった??」
「いや。これってユーザーIDとかパスワードとか必要じゃないの」
「そんなの聞いてないわ」

そんな馬鹿な。

「業者から貰った紙とかない?」

彼女は机の引出を開け、中をしばらくかき回した後で封筒をとりあげた。中から紙を何枚か取り出す。中国語なんで何を書いてあるかはわからないが、ざっと目を通しているうちにそれらしいアルファベットと数字の羅列を見つけた。これだ!

試しに入力してみるとビンゴ。一発でつながった。日本のADSLとかより接続確立がかなり早い。大丈夫かなこれ。何か重要な手順を省略してるんじゃないか。

ちなみにこのADSL。最初の頃は早かったんだけど、そのうちだんだん遅くなってメールの添付ファイルがとれなくなった。しかも、接続中にハッカーが攻撃をしかけてくるようでファイアーウォールの警告が出まくる。かなりワイルドな環境だった。

2,000RMBの出費が痛かったと彼女が文句を言う。年間の利用料が先払いだったそうだ。
毎月、結構な金額を渡しているのでこれくらいいいじゃないか、って思うんだけれども彼女の方はそういう感覚ではないようだ。

さらに話をするうちにパソコンが欲しいという話を言い出した。

ま、確かにネット環境だけあるということに違和感を覚えるのは認める。それに俺もメールを自由にやりとりできる環境があると嬉しいので買ってあげるのも一案だと思った。多分デスクトップなら安いよね。でも、彼女はノートPCでなきゃ駄目だという。それも中国製ではなくDellとかhpとかの奴だ。聞いてみると結構なお値段だ。

そこまでは出せないということで結局この話はそれで終わり。
俺は打ち出の小槌じゃねぇぞ、と少し気分が悪くなった。


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3-61.個人情報
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-61

翌朝、彼女はコンビニに買い物があると言って部屋を出ていった。俺は一人留守番だ。PCを開いてネットにでもつなごうと思ったけどつながらない。よく見るとパスワードを記録し忘れていたみたいだ。また入力しなくてはならない。

昨日見た業者からの書類一式はどこだろう。何気なく彼女の机の引出を開けると、そこにはいろんなものが入っていた。

最初に目に入ったのはIDカードだ。以前のものとおぼしき写真に惹かれて手にとってみて驚いた、名前が違う。KTVで初めて会った時に聞いた名は張さんだけど、ほんとうは陳さんだった。ま、普段は英語名で読んでいるので不自由はないし、店での最初の会話で本名を教えるわけないんだけど、付き合っても本名を自分から教えてくれることはなかったんだよな。と思いながらカードを戻す。

次に見つけたのはパスポート。何でこんなものとってるんだ。中身を見たが海外渡航歴はなかった。だんだん家宅捜査っぽくなっている。次に出てきたのは預金通帳。何とも凄い引出しだよここは。

流石に預金通帳は緊張した。俺が上げた金がどんどん貯金になっていたり、別の人に送金されているんだったらやっぱりショックを受けるんだろうな。ごくりと唾を飲み込んで通帳を開くと、そこには一行しか記載がなかった。日付は彼女が上海に来た少し前。金額は結構な額だ。一括で振り込まれたまま動きはない。

通帳記帳していないだけなのか、それとも本当にこの金に手をつけていないのか。振り込んだのは多分母親に違いない。一人娘が上海に出るというので、なけなしのお金を持たせたのだろう。金額の大きさは愛情の証だ。これが彼らの愛情表現なのかなどとちょっと考えた。
この金はまだあるんだろうか、使ってしまったんだろうか。そもそもこれだけの金を貰っておきながら、何故KTVで働かなければならなかったんだろうか。謎は深まるばかりだ。

通帳を戻してさらに探すとパスワードを入れた封筒が出てきた。そうそう、本来はこれを探したかっただけなんだよ。PCにそれを入力して保存する。そして、紙を封筒に戻して引出を元に戻した。

しばらくして彼女が帰ってきた。何気ない調子で問いかけてみる。これで本名を言ってくれるだろうか?それとも以前ついた嘘をつき通すのだろうか?
「そういえば、中国名の本名って何ていったっけ?」
「発音難しいからあなたには無理よ。英語名で呼んでくれればいいわ」

何とも微妙な答え。もしかしたら好意でそう言ってくれたのかもしれないけれども、少し距離を感じた俺だった。


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3-62.街中交流
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-62

昼頃から活動開始。まずは昼飯を食べようということで新天地に行く。Mac Cafe でお茶をして、その後、マックに移動する。何で昼間からハシゴしているのかよくわからないんだが、その日は珍しく彼女は昼から食欲旺盛だった。昨晩の惨敗のうさを晴らすがごとく、ハンバーガーをほうばった。

カウンターで店員がグッズをつけてくれた。席について食べながら話をしてたら、彼女は貰うのは二度目なんだそうだ。子供用の人形なので、俺もいらない。仕方ないから捨ててゆくかな、と言うと、それは勿体無いという。追加注文でアイスを頼みに行くついでにレジに返すというのだ。

っつーか、アイスも食うのかよ。

注文を言いながら彼女はグッズをレジに置いて何事かを喋った。多分「これはもう持ってるからいらないわ」とか何とか言っている。レジ係りはイレギュラーな処理になるので面倒なんだろう。拒否の姿勢だ。そこを彼女が押し込む。「勿体無いから他の人にあげてよ」とか何とか言っているようだ。

レジ係りは相変わらず拒否の姿勢だが、目が笑っている。こんなしょうもないことで理屈をこねる彼女がおかしいらしい。彼女はまだ喋っている。「店にとっても何も問題ないでしょう。ただ景品を入れてる箱に戻すだけじゃないの。それで貰える人が増えるんだから店長だってよろこぶでしょう」ジェスチャーから察するにこんな感じだ。弁舌さわやかにいっぱしの論陣なのだ。何をそんなに一生懸命になってるんだ。と思うけど、彼女は大真面目である。

結局レジ係りは根負けした。笑いながら景品を受け取り、レジの後ろにある景品ボックスに戻しに行く。とその時、後ろで聞いていた老夫婦の旦那の方が声をあげた。「そんなにいらないんなら、わしらにくれないか」孫にでもあげるつもりなんだろうか。景品のおもちゃの引取りを申し出たのだ。

いきなり背後からの攻撃に面食らった彼女だが、すぐに事態を理解すると、背を向けて景品を置きにいくレジ係りを呼び止めた。「待って、待って、返すのはやめよ」振り向いたレジ係りに「このおじいちゃんが欲しいって。だから返すんじゃなくておじいちゃんにあげるわ」。

もうどうにでもしてくれという調子でレジ係りは戻ってくると、景品を置いた。彼女はそれをとって、後ろの爺に手渡す。「謝謝」と言われて俺の方に振り向いた彼女は、良いことをしたという充実感に溢れた表情をしてみせた。


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3-63.カラオケ
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-63

その後で向かったのはKTV。といっても小姐がいるところではなく、普通の歌う店だ。名前はビッグエコーと言う。場所は外灘にほど近い大通りの脇だ。

さすがチェーン店。店の内装からシステムまで日本と一緒だ。でも交わされている会話が中国語なので、なんだかすごく変な感じだ。

小部屋に入って曲を選ぶところで気がついた。どんな曲を歌おう。言葉で言うと、彼女と俺が共有できるのは英語だけだ。だけど、考えてみたら俺は英語の歌なんて歌えない。しょうがないので古めの曲を一曲入れてみたが、歌いやすいのはサビだけでかなりお寒い状況になってしまった。一方、彼女はというと、英語の歌も結構歌えるみたいだ。いろいろ入れている。

俺は開き直って日本語の歌を歌うことにした。さすが日本のチェーン店。日本の歌のラインナップも相当な数を置いている。夜のKTVで見るラインナップとは量が一桁二桁違う感じだ。その中から密かに1曲を選んで入力する。

歌が始まってタイトルが出ると彼女が驚いたように声を上げた。

「日本の歌じゃないの!」
「ごめん、英語の歌は歌えないから、日本の歌を歌わせて」
「え~」

という感じでちょっと不満そうな声をあげたが、ほどなく自分も中国の歌をバリバリ入れ始めた。このあたりは、あんまりこだわりがない。

中国の歌とかいっても中華航空の機内で流れてるような奴とか女子十二楽坊の様ないかにも中国っぽいもんじゃなく、ラップ調のオシャレな感じの曲だ。日本のJPOPよりも洋楽っぽい感じすらする。カラオケなので歌詞が下に出るから歌の意味はだいたいわかるのでやってみると結構違和感はない。彼女の方も結構わかるみたいだ。

「これは失恋のうた?」

俺が歌っていたら急に聞く。画面の雰囲気と歌詞の漢字で類推できるらしい。

「すごい、よくわかったね」

と驚いて見せたら彼女は何だか得意そうだ。次に歌った曲は、、

「Oh, Thats a school song, right?」

スクールソングというのは初めて聞いたが、まぁある意味その通りだ。

3曲目の映像を見て彼女は、

「わかった。この人はコメディアンね!」
「ブッブー。違います」

おどけて答えて見せる。

「彼はプロの歌手で、コメディアンではありません」
「え~信じられない。そんな人が何でこんなことしているの?」

歌っていた曲はウルフルズの「ガッツだぜ」。

画面ではちょんまげ姿のトータス松本が踊り狂っていた。


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3-64.物欲旺盛
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-64

カラオケの後夕食に行き、バーで一杯ひっかけてから家に戻る。

家に戻って話をするうちに音楽の話になった。昨日のCJWは基本ジャズで、今日のはトランス系の音楽だ。どちらも音楽的には昨日の方が良かったということで意見は一致。

そこから自分で弾ける楽器は?という話になった。彼女の郷里はピアノの普及率が高いことで知られた都市だ。聞いてみると、果たして子供の頃に習っていたという。実は俺も多少弾けるんだ、というと驚いて目を丸くした。そりゃそうだよな。楽器なんて似合わないかもしれない。よく言われるよ。

どれぐらい弾けるかってのでバイエルだソナチネだとか、日本人同士なら話せばだいたいレベルの見当がつくんだけど、中国は違うのかもしれない。そういう話をしてもうまく伝わらなかった。発音が悪いのかな。

「じゃぁ、水泳の次は今度はピアノで勝負しようか」

と振ってみたら、露骨に逃げ腰になった。どうやら相当自信はないようだ。でも、キーボードくらい買ったら楽しいかもね。と何気なく話をしたところで急に食いついてきた。

「それはいい考えだわ。ピアノを買ってよ」
「え?」
「そしたらあたしは勉強の合間に練習ができるわ。あなたに聞かせてあげるわよ」
「キーボードでしょ?」
「あれは駄目よ。タッチが全然違うもの。電子ピアノでなきゃ」

どうしてそう高い物ばかり欲しがるんだこいつは。

「ねぇ。ピアノが欲しい」

彼女がまたねだるのをなだめすかし、シャワーを浴びると言って席を立った。
昨日はパソコンで今日はピアノの要求だ。もう、連日これかよ。

***

翌朝。スーツを着て支社に出勤だ。

午前中授業のない彼女はまだベッドでまどろんでいる。荷物をまとめて出かける頃にようやく起き出してきた。あられもない姿で俺に抱きつき、「次はいつ来れる?」と問いかける。そして、戸口を出た俺を見送る。扉で身体を隠して首だけを出して廊下を歩く俺を見送り、「気をつけてね」とか「忘れ物ない?」とか話しかける。エレベーターホールに曲がって、彼女の姿が見えなくなっても、廊下の向こうからか細い声で話しかけてくる。

エレベータが来たので、「もう行くよ」と言って会話をうち切る。「じゃぁね」

こういうところは可愛いと思うんだけどねぇ。



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3-65.金の有難み
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-65

帰国してからもしばらくはいつもの調子だった。夜の仕事をしなくなり、生活も保障された彼女は学生生活を謳歌していた。メールもあったがSMSが頻繁にくるようになった。学校の共用PCを使うよりもこちらの方が便利に感じるようになったようだ。

そんなある日、いつもの様にSMSで会話をしていたら、また金の話になった。彼女はCDウォークマンを持っていたのだが、随分前に壊れていたのだった。

「日本でいいのがたくさんあるでしょ。今度来るときに買ってきてよ」

気軽に言いやがる。安いとはいっても数万はするんじゃないか。

「じゃぁ、クリスマスプレゼントに考えておくよ」

とかわしたものの、先日来続いたおねだりにいい加減うんざりしていた俺はついきつい一言をSMSで送った。

「俺は君の財布じゃないんだよ!?」

彼女の反応は早かった。

「え?それどういう意味?」
「だからお金の大切さが分かってる?」
「分かってるわよ」
「それにしては感謝の気持ちが感じられないよ」
「何を言いたいわけ?」

彼女は逆ギレ気味だ。久しぶりに中国人の怒気に触れる。どうも言い方が彼女のプライドを傷つけたようだ。でも、ここ最近の動きは看過できない。金を出しているのは俺なのだ。でも、そういう趣旨に彼女が屈することはなく、メッセージを交わすごとに話がこんがらがってゆく。しょうがないので一旦うち切り、別途メールを送ることにした。

***

一晩寝て、気持ちを落ち着けてから慎重にメールを書いた。最初は彼女がKTVをクビになったので緊急避難的に助けることになったこと。必要な金額の内訳には納得していないこと。その後もことあるごとに買い物をしたり、おねだりをしたりするけど、これは話がおかしくはないか。一度ちゃんと話し合った方が良いと思う。という内容だ。

彼女の返信は予想に反して冷静だった。

「自分は軽い気持ちで言っていただけなのに、あなたがそう受け取っているとは思わなかった。内訳が必要なら今度メモを書くわ」
「言ってることをメモに書いてもらっても同じなんだけどね」
「多分私のこと誤解してるわ。私が望んでいるのはsimple lifeよ。ただそれだけ」
「君の言うsimple life はbasic lifeじゃないよね」

少しづつまたボタンが掛け違ってくる。俺も別に彼女に赤貧の暮らしをしろと言うつもりもないのだ。ただ、最近の態度がちょっと目に余るだけなのだ。

それがどうしても相手に伝わらない。


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3-66.冷戦状態
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-66

金の話がこじれ、交わすメールの内容が徐々に重たくなってゆく。彼女のメールも苦悩の色が強い。

『あなたに支えられていることには感謝しているわ。でも、同時に私はこの状況に劣等感も感じてるの。あなたは私より何倍も優秀だし、恵まれた環境にいる。何でもすることができるのよ。でも私は自分だけでは何もできない。毎回お金をもらうたびにその事実を突きつけられる気がするわ。こんな私の気持ちは、あなたにはわからないでしょうね』

いろんな解釈があるものだ。これじゃ俺が加害者みたいじゃないか。

毎日メールで話をしているうちに、これはどうも文化の違いであり、また、この種の微妙なニュアンスを話しあうにはお互いに英語力が十分でないということで意見が一致した。
でも、それがわかっても金の問題は解決しない。最後に彼女がこう言い始めた。

「もし気を悪くしているのなら援助を止めていいわよ。厳しい状況だけど私は生き延びられるから。これまでもそうしてきたし、大丈夫よ」
「まぁ、一度顔を合わせて話した方が良いんだろうね。でも、可能なんだったらお金をあげるのは止めた方が良いかもしれない」

初めてその件に言及した俺だった。

正直、もうちょっと金額が安ければとも思ってた。でも、メールでの話ではオールオアナッシングにしかならない。いずれにしても一度会って話をした方がよさそうだ。
ちょうど定例の中国支社との打ち合わせが入ったので、その後の週末を彼女と過ごすことにした。

今回の旅はビミョーだった。何しろ彼女と深刻な話をするのである。ある意味喧嘩というか、利害が対立した状況だ。そうなると関係がブチ壊れる可能性も考えておかなくてはならない。

考えた末、この週末は自分で安宿を取ることにした。普通なら彼女の家に泊まるところだけれども、話の成り行きによっては家をたたき出される可能性もある。そうなるとサブい状況になる。っつーか、それが嫌で凄い譲歩をしてしまいそうな気がする。それは避けたい。絶対あとで後悔する。

彼女は英語の学校での試験があるらしい。いろいろ忙しそうで、メールも滞りがちだ。間が悪いことに使っていた国際SMSのサービスもシステムが不調でやりとりがうまくいかない。結局、出張の数日前から彼女の返信が一切ないという状況になった。俺は毎日メールを送っているのに、返事はなし。

こりゃ相当寒い出張になりそうだ。

俺は気を引き締めた。


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3-67.取り込み中
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-67

恐る恐るの上海出張。上海支社での仕事中にSMSを送ると彼女は普通に返事をくれた。システムの問題がなくなったせいか、あるいは会いに来たという事実が良い印象を与えたのかもしれない。

金曜の仕事を終えて安宿にチェックイン。初めて泊まるホテルだけど思ったより悪くない。荷物をほどきながらSMSで連絡をとり、彼女のマンションまで歩いてゆく。

マンションの部屋で俺を迎えた彼女はカバンを持っていない俺を見て驚いていた。仕事やら何やらがあるので今回はホテルをとったんだと下手な言い訳をする。不審気に話を聞いていた彼女だが、最後には納得して笑顔に戻った。

そのまま本題には入らずに雑談をし、やがて夕食を食べに行こうと言うことになった。マンションを出て前の通りでタクシーを拾う。止まったタクシーの扉を開けて彼女を先に入れ、俺が後から入る。中で彼女が俺を見て言った。

「さて、どこに行く?」

おいおい、乗ってから聞くなよそんなこと。いつもそう指摘するんだけどお構いなしだ。苛立つ運転手を適当になだめて時間稼ぎしながら、

「前は洋食だったら今回は中華がいいかしら」

なんて言っている。俺はもう気が気じゃないけど、彼女はお構いなしだ。
そして運転手の怒りが爆発する寸前に、行き先を指示した。

無計画な割りには妙なところで空気を読む力が強いのだ。
怒るタイミングを外した運転手は、やや荒っぽい運転で車を操り、目的地に向かう。彼女はいたずらっぽい目をして俺の方を見ると、シートに置いた手をにぎってきた。運転手には悪いが、彼女の機嫌は悪くなさそうだ。

しばらく走ると彼女の携帯が鳴る。

中国語で話しているので相変わらず分からないが意外な人だったらしい。挨拶のような口調の後、近況でも話をし合っているのだろうか、会話がはずんでいる。俺は黙って外の景色を見ている。昔はこういうことはなかったが、最近増えた。ずうっと一緒に居るので仕方ない。俺もなれっこになっていた。

しかし今回は様子が少し違った。途中から彼女がだんだん早口になる。何か不満を訴えているような口調だ。

「どうしてわかってくれないの?」

というような口調に聞こえる。声が泣き声になってきたので驚いて振り返ると、彼女の眼から大粒の涙がこぼれ落ちるところだった。また間が悪いことにタクシーは目的地のそばについたようだ。

運転手がどの辺にとめればいいんだというようにバックミラー越しにこちらを見る。彼女が電話中なので俺の方に視線が来たが、俺はそもそも行き先を知らない。中国語も喋れない。困った表情をしてみせて彼女を指さす。でも、彼女は明らかに取り込み中だ。

姐さんすみません、俺たちは一体どうしたらいいんでしょう?

言葉を一言も交わさないまま、運転手と俺との間に奇妙な連帯感が生まれた

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3-68.最後通告
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-68

俺と運転手、二人の視線に気づいた彼女がジェスチャーで運転手に指示を出す。電話はまだ続いたままだ。今度は相手の言い分を聞いているようだが、納得出来ている様子ではない。いったい何が起こってろう。

電話から一瞬耳を離して彼女が運転手に「停車」と言う。路肩に車が止まってから後は俺でもできる。「給我発票」と言ってレシートを貰う。中国のタクシーはレシートの印刷が遅いので結構時間がかかる。その間も彼女は話し続けている。レシートを受け取った俺が先にタクシーを降りたが、彼女はなかなか出てこない。

ようやく出てきた後も歩道で泣きながら話をしている。通行人がじろじろ見るのでいたたまれない。でも他人の振りはできないしなぁ。。

ようやく電話が終わって彼女が歩き出した。店は道路の反対側だ。車道をわたりながら彼女に「Are you OK?」と聞く。

「何か問題でもあったの? 相手は誰?KTVの人?」

道路を渡りきった彼女は俺の方を見て

「父よ」

と一言言った。

彼女の母親は最近再婚したのだった。新しい父親と彼女とはそりが会わず、それが彼女が上海に出てきた原因の一つでもあった。その家族関係に何か変化というか、進展があったようだった。でも彼女はそれ以上語ろうとしない。俺もそこは突っ込まずに店に入った。

家族の面でも問題を抱えている彼女だが、俺たちとの間にも重たい問題が横たわっている。食事をしながら、徐々にその問題に入ってゆく。でも好ましい展開にはならなかった。顔をつきあわせて話をしたら何かが変わるかと思ったけど、メールでいろんな話をしつくしているので新しい進展はあまりない。結局は同じ話の繰り返しだし、議論はズレたまんまだ。

彼女はシンプルライフにすぎないと言う。俺は贅沢だと思ってる。そんなに生活費がかかるわけがないのだ。住宅ローンがあるんだと彼女が言い出した。仕送りで自分が負担をしなければならない。それも妙な話だ。そもそも学生がなんで家の住宅ローンを負担するんだ。それにそんな資金が必要なんだったら、彼女はずっと夜の仕事を続けなければならなかったってことじゃないか。

自分の英語力を総動員して、ゆっくりと言葉を選びながら話をする。でも結局、俺の疑問は晴れなかった。根本的なところですれ違っているので条件交渉にもならない。オールオアナッシングだ。こうなると話を始めた俺としても妥協して引き下がるわけにはいかない。結局、援助打ち止めという結論に行かざるを得ない。

夕食を終えた後にその結論を告げると、彼女も黙って頷いた。


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00 : 08 : 34 | 筆談小姐3 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
3-69.小姐の主張
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-69

夕食の場では一旦は納得した彼女だったが、帰りのタクシーの中で再び話を蒸し返し始めた。どうにも納得できない様子だ。

「私はあなたを財布だなんて思ったことはないわ、どうしてわかってくれないの」
「そう思ってるようなそぶりに見えたんだよ、ここ数回会ったときはおねだりばかりじゃないか」
「そんなつもりはなかったわよ」

同じような議論が延々と続く。最後の方は彼女もややキレ気味だ。

「なんであなたはそうやってお金の話ばかりするのよ。付き合う前からあなたはお金の話ばっかりだったわ」

おいおい、何でそういう話になるんだよ。

「何度言ったらわかるんだよ、日本じゃ恋人に金を渡したりなんかしないんだよ」
「それにしたって言いすぎだわ」

まるで俺が心の偏狭な人間だといわんばかりの目だ。一瞬、彼女の論理に屈して頭が混乱しそうになるのを懸命に抑える。気がつくと流れが変わっているのは彼女の論戦の巧みさなのか。
俺はもう成り振りかまっていられなかった。何としても流れを変えなければ。

「俺がいくら金を使っていると思ってるんだ。ホテル代や飛行機代だってあったし、その上に君の生活費の面倒まで見て、累計でどれだけの出費になってることか」
「一体いくらだっていうのよ」
「○万円くらい」
「RMBで言ってよ」

面倒くさい女だ。

大げさに溜息をついて日本円を15で割り、RMBに換算する。
それを告げると彼女は、

「そんなに・・」

と絶句した。

思いのほか大きなインパクトに妙な満足感を覚えた。もう完全に俺の流れだ。
これなら面倒な計算をした甲斐があったというものだ。
日本円を15で割って、、あれ、いやまてよ。

「ごめん、一桁大きかった」
「なによそれ」
「でも十分大きな金額だろ」
「さっきのよりは全然小さいわ」

また流れが変わるのを感じる。ここで押されてはいけない。攻めの一手だ。

「じゃぁ自分で出すとしたらどう感じる」
「それは。。。」

気圧されて少し視線が泳いだ彼女だったが、やがて顔を上げるとこう言った。

「でも、今はそれくらいしてくれたっていいじゃないの。」
「何でだよ」
「だって、」

彼女はまっすぐ俺の目を見て言い放った。

「私はあなたに一番大切なものをあげたんだもの」
「。。。。。。」


山口百恵かお前は。

絶句する俺のアタマの中ではあの名曲「ひと夏の経験」が鳴り響いていた。



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00 : 09 : 33 | 筆談小姐3 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
3-70.適切な距離
2008 / 04 / 16 ( Wed )
3-70

その夜、彼女は俺のホテルに泊まった。ベッドの中で少し涙声になって俺に懇願する。

「夜の仕事に戻りたくないの」

これはマジかなぁ。

正直、最初の頃は金が必要だという話事態がペテンだと思っていた。きっとたんまり貯金してたり、家に仕送りしてたりするんじゃないかと。でも、このしつこさをみると、本当に金を稼がなければならない理由があるようにも見える。

もし彼女の言うことが全て本当だとしたら、俺はひどいことをしているんだろうか。

でも、じゃぁ俺に何ができるのかとも思う。住宅ローンだか何だか知らないけれども、今後ずっと金が入り用だとしたら、俺はずっと金をあげ続けなくてはならない。いつかそれを諦めたら彼女はまた夜の世界に戻っていってしまう。単純に言えばそういう話だ。もしかしたら期限はもっと早いかもしれないが、それが明示されない以上、最悪のケースはあり得るわけだ。

やはり冷静に考えるとここは止めておいた方が良いような気がする。

ある意味、彼女は野生動物なのだ。外見や仕草が可愛らしく見えても中身は俺なんかよりずっとタフで、したたかで、独立している。だから厳しい生存競争を生き延びているのだし、傷を負うのもある意味彼らの日常かもしれない。温室育ちの俺の甘っちょろい同情なんて現実感がなくて共感する気にもならないだろう。

野生動物を危険から守るのは相当な金と手間がかかるけど、それは結局家畜やペットを作るだけ。要するに俺のエゴだ。しかも、長く続くほど情が移って止められなくなる。

結局のところ、野生動物は野生動物として接するべきなのだ。餌付けをして、ちょっと心が通じた気になって満足するくらいが一番良い楽しみ方なのだ。パンドラの箱は開けるべきじゃないってことだ。

冷静に考えているつもりが、だんだん自分を納得させるための屁理屈になっていくのを感じる。
でも、何にせよ、結論は出ている。あとはまず自分の心の踏ん切りをつけ、彼女が事実を受け入れるのを待つだけだ。

眠ったのは深夜も遅くなってからだった。

翌朝、窓の外が明るくなっても俺たちは眠り続けた。互いに何度か目を覚ましてはいたが、彼女は目を開けることなく眠り続ける。昼過ぎになってハウスキーパーから電話、中国語だがどうやら部屋の清掃をどうするかと聞いているらしい。「不要」と応えて電話を切る。いい加減目が覚めたので起き出すが、彼女は一人で眠り続ける。

まるで眠ることが抗議でもあるかのように夕方まで眠り続けた彼女は、日が暮れるころになってようやく起き上がり、シャワーを浴びると濡れた髪が乾かぬまま服を着て、何も言葉を発することなく家に帰っていった。



3-70b


00 : 10 : 34 | 筆談小姐3 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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